Kolybel'naja Jerjomushki |
イェリョムーシカの子守歌 |
Baju,baj,baj,baju,baj,baj. Nizhe tonen'koj bylinochki Nado golovu klonit', Chtoby bednoj sirotinushkje. Bespechalno vyek prozhit. Baju,baj,baj,baju,baj,baj. Sila lomit i solomushku, Poklonis' ponizhe jej, Chtoby starshije Jerjomushku V ljudi vyveli skorej. Baju,baj,baj,baju,baj,baj. V ljudi vyjdesh',vsjo s vel'mozhami Stanesh' druzhestvo vodit', S molodymi da s prigozhimi Budesh' s barami shalit'. I veselaja,i privol'naja Zhizn' pokatitsja shutja. Baju,baj,baj,baju, baj, baj. |
ねんねんよ ねんねんよ 丈の一番低い草よりも おまえは頭を低くするんだよ そいつがみなしごの生きる道なのさ 悲しみを知らずに生きておくれ ねんねんよ ねんねんよ 風は弱い茎をへし折ってしまうだろうが 静かに頭を下げておくんだよ イェリョムーシカも祈っているよ 偉い人たちに目を付けられぬようにね ねんねんよ ねんねんよ そうすりゃおまえもお偉いさんになれるさ 金持ちたちと付き合って 若い美人たちに囲まれて、 呑気な暮らし 陽気で 自由な暮らし 冗談みたいに恵まれた暮らし ねんねんよ ねんねんよ |
ムソルグスキーという人はいったい何曲の「子守歌」を書いているのだろう?と思うくらいこの子守歌というジャンルにこだわった人のようにも思います。有名な「死の歌と踊り」でも死神が歌う冷徹な「子守歌(ゆりかご)」がありますし、あの可愛らしい歌曲集「子供部屋」でも、お人形を寝かしつけて少女が歌う素敵な「子守歌」があります。他にも「農民の子守歌」なんて素朴な、しかしちょっと悲しい歌もあるのですが、やはり一番私にとって強烈だったのはこの「イェリョムーシカの子守歌」です。
虐げられた人たちの自虐的なユーモア、したたかな生きざまの描写、世の中の矛盾への静かな怒りと諦め、そんなものが複雑に混ざり合ってこの悲しくも美しい子守歌が生まれました。このような貧しい庶民の描写に優れたニコライ・ネクラーソフの詩も絶妙です。そしてムソルグスキーのごつごつとした音楽のユーモアとペーソス...
この寂しげな歌の響きは、あの抑圧された民衆の描写が素晴らしいムソルグスキーの傑作オペラ「ボリス・ゴドノフ」に通ずるところがあって感動的。最初の凍りつくような寂しい旋律が、お偉い人の生活を夢見る最後の部分では夢見るように美しいメロディに変わるのはさすがムソルグスキー。絶妙の効果です。そこが涙が出るくらい悲しいのです。
ソプラノのガリーナ・ヴィシネフスカヤが1976年にEMIに入れた、ロストロポーヴィッチのピアノ伴奏によるこの演奏がとても見事です。このムソルグスキー歌曲集、あの歴史的名演、ショスタコーヴィッチが編曲して彼女に献呈したという「死の歌と踊り」の管弦楽伴奏版(ロストロポーヴィッチ指揮のロンドンフィル)も聴けますのでロシア歌曲を聴かれる方にとっては必携のアルバムかと思います。とにかく全部凄いとしか言いようがありません。
あと私が非常に印象に残っているのは、世界の子守歌を弦楽伴奏にアレンジしたものの上で歌うChandos盤の世界の子守歌(ナディア・ペレの歌にイ・ムジチ・モントリオールの伴奏)、以前「ワーグナーの子守歌」のところで取り上げましたが、選曲の興味深さもさることながら、弦とハープによる伴奏のやすらかな美しさ、そして歌うソプラノの声の優しさに大変私も惹かれているのです。
このCD、ロシアからもけっこうな数の子守歌を取り上げていて、つい最近取り上げたグリンカのもの、あるいはレールモントフの詩も可愛らしいグレチャニノフのもの、そしてチャイコフスキーの子守歌にこの「イェリョムーシカの子守歌」と全部で4曲、しかも全部ちゃんとロシア語で歌ってくれているところもポイント高です。
( 2006.01.21 藤井宏行 )