Kalistratushka |
カリストラート |
Nado mnoj pevala matushka, Kolybel' moju kachajuchi: Budesh' schastliv,Kalistratushka, Budesh' zhit' ty pripevajuchi. I sbylos' po vole Bozhijej Predskazan'je mojej matushki. Net schastlivej,net prigozhej, Net narjadnej Kalistratushki, Okh! net narjadnej Kalistratushki! Kljuchevoj vodicej umyvajusja, Pjaternej cheshu volosyn'ki, Urozhaju dozhidajusja S nezapakhannoj polosyn'ki, S nezapakhannoj polosyn'ki, S nezasejennoj. A zhena moja zanimajetsja Na nagikh detishek stirkoju, Pushche muzha narjazhajetsja: Nosit lapti s podkovyrkoju. Da,budesh' schastliv,Kalistratushka, Okh,budesh' zhit' ty pripevajuchi! |
おれのおっかさんは歌ってくれたもんだ ゆりかごをゆすりながら 「おまえは幸せ者になるよ カリストラーシカ 気楽な暮らしができるんだよ」と そして神様のおかげで現実になったのさ おっかさんの言った通りにな これ以上の幸せもんは、男前な奴は 良い身なりの奴はない、カリストラート程の奴は おお、良い身なりだよカリストラート 泉の水で服を洗って 5本の指で髪をとかし 秋になったら収穫だ 種もまいてない畑から 種もまいてない畑から 種もまいてない畑 俺のかみさんは大忙し 子供を裸に剥いてボロ着の洗濯 だんなも顔負けの良い身なりだ ともかくも裸足にブカブカのサンダルは履いてるのだから なるほど、あんたは幸せ者だよ カリストラート おお、お気楽な暮らしができているよ! |
ムソルグスキーの音楽にネクラーソフの詩というと、まさに絶妙のコンビネーションではないでしょうか。
当時のロシアに巣食う社会の矛盾を鮮烈な歌にしてくれていることを期待してしまいます。
そして事実、この曲や「イェリョムーシカの子守歌」はユーモアの中にもどこかほろ苦くも悲しい、美しい歌曲となりました。残念ながらこのコンビによる作品はこの2曲しかないようなのですが、いずれもムソルグスキーの歌曲の中でもとても印象的なものに仕上がっていると思います。
この「カリストラート」(あるいは「カリストラーシュカ」)、貧しい農奴階級の主人公が惨めな暮らしを自虐的に歌っている歌です。「幸せな暮らし」とか「良い身なり」なんていうのは皮肉にそういっているだけなのは詩を読んでいただければお分かりの通り、最初の慈愛にみちた、しかしどこか哀しげなおかあさんの子守歌は、主人公カリストラートの幼い日の思い出でしょう。そして現実に戻ったときの悲惨な暮らしはもう笑いとばすしかない。そしてそこにムソルグスキーもとてもユーモラスな農民の踊りを思わせるようなメロディをつけました。ユーモラスなのですが、その底に流れる悲しみの表情はこの曲をとても深みのあるものにしてくれています。
こういう曲になりますと、やはり歌曲全集(EMI)にあるバスのボリス・クリストフの圧倒的な表現力が聴きものですが、今回聴いてより印象に残ったのが、ソプラノのヴィシネフスカヤが歌っているErato盤でのロストロポーヴィッチのピアノ、この曲がユーモラスなだけでなく、きらめくような美しさにも満ちているということを教えてくれました。より抒情味が強い歌声に合わせて歌詞が笑っているときでもピアノはすすり泣いています。涙が出そうなくらい美しいメロディで...
( 2006.01.21 藤井宏行 )