TOPページへ  更新情報へ  作曲者一覧へ


茉莉花(まつりか)    
 
 
    

詩: 蒲原有明 (Kanbara Ariake,1875-1952) 日本
      

曲: 信時潔 (Nobutoki Kiyoshi,1887-1965) 日本   歌詞言語: 日本語


咽び嘆かふわが胸の曇り物憂き
(しゃ((とばり(しなめきかかげ、かがやかに、
或日は映る君が面、媚の野にさく
阿芙蓉の(((なま(めけるその匂ひ。

(たま(をも((らす私語(ささめき(に誘はれつつも、
われはまた君を(いだき(て泣くなめり、
極秘の愁ひ、夢のわな、――君が(かひな(に、
痛ましきわがただむきはとらはれぬ。

また或宵は君見えず、生絹(すずし((きぬ(
衣ずれの音のさやさやすずろかに
ただ(つた(ふのみ、わが心この時裂けつ、

茉莉花(まつりくわ(の夜の一室(ひとま(((のかげに
まじれる君が微笑はわが身の(きず(
もとめ来て沁みて薫りぬ、(あて(にしみらに。


    茉莉花=ジャスミンの一種
    阿芙蓉(あふよう)=芥子(ケシ)



 明治期の象徴派詩人、蒲原有明(かんばらありあけ・1875-1952)の文語詩による作品。蒲原はイギリスのラファエル前派の画家で象徴派詩人のダンテ・ガブリエル・ロセッティに心酔し、未完に終わったもののその全訳を試みていました。
この詩はご覧の通り4+4+3+3の構成で、ロセッティが多用したソネットの形式を模して書かれています。どうぞ声に出して何度か読まれてみてください。
 この、ジャスミンのむせるように甘美な香りのように濃厚で美しい文語詩を、信時は演奏時間6分ほどのロマン派風歌曲に仕上げています。おそらくこのような作品が今後生み出されることはないだろうことを思うと、ますます貴重に思える歌曲です。なお蒲原はフィッツジェラルド訳の「ルバイヤート」を初邦訳(六首)したことでも知られていますが、信時はそのひとつにも作曲しています。
 聴くことの出来たのはビクターの信時潔歌曲集に含まれる木村宏子(MS)と三浦洋一(P)による一種のみですが、曲の魅力を知るに十分な優れた演奏だと思います。

( 2005.10.26 甲斐貴也 )


TOPページへ  更新情報へ  作曲者一覧へ