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Seemanns Abschied    
  Gedichite von Eichendorff für eine Singstime und Klavier
海の男の別れ  
     アイヒェンドルフ歌曲集

詩: アイヒェンドルフ (Josef Karl Benedikt von Eichendorff,1788-1857) ドイツ
    Gedichte - 1. Wanderlieder  Seemanns Abschied

曲: ヴォルフ (Hugo Wolf,1860-1903) オーストリア   歌詞言語: ドイツ語


Ade,mein Schatz,du mocht'st mich nicht,
ich war dir zu geringe.
Einst wandelst du bei Mondenlicht
und hörst ein süßes Klingen:
Ein Meerweib singt,die Nacht ist lau,
die stillen Wolken wandern,
da denk' an mich,'s ist meine Frau,
nun such' dir einen andern!

Ade,ihr Landsknecht',Musketier'!
wir zieh'n auf wildem Rosse,
das bäumt und überschlägt sich schier
vor manchem Felsenschlosse.
Der Wassermann bei Blitzesschein
taucht auf in dunklen Nächten,
der Haifisch schnappt,die Möven schrei'n,-
das ist ein lustig Fechten!

Streckt nur auf eurer Bärenhaut
daheim die faulen Glieder,
Gott Vater aus dem Fenster schaut,
schickt seine Sündflut wieder!
Feldwebel,Reiter,Musketier,
sie müssen all' ersaufen,
derweil mit frischem Winde wir
im Paradies einlaufen.

あばよ、俺のかわいこちゃん、おまえはつれない女だった
おまえは俺なんかどうでもよかったんだな
いつか月明かりの晩に歩いていて
甘い歌声が聞こえてきたら
そいつは人魚が歌っているんだ
静かに雲が流れる生あたたかいその夜に
俺のことを思い出せ、その人魚は俺の女房だからさ
じゃあな、おまえも別の男をさがすがいいさ!

あばよ、傭兵たち、銃手たち!
俺たちは荒馬どもに向って進むんだ
巌のごとき城壁の前で
馬どもは棒立ちになって転げ落ちる
稲妻に照らされた海の妖怪が
夜の闇から姿を現し
フカが喰いつき、カモメが叫ぶ・・・
こいつは愉快な戦さじゃないか!

おまえらは家の熊の敷物の上でだらしなく
なまった手足を伸ばしていやがれ
父なる神様が窓からご覧になって
もう一度ノアの洪水を起してくれるぜ
軍曹も、騎手も、銃手も
みんな溺れて死んじまうがいい
その間に俺たちは気持ちのいい風に吹かれ
楽園に入港するって寸法なのさ


「絶望的な恋人」以上に無茶苦茶なやけっぱちの歌で、馬鹿馬鹿しさを通り越して愉快でもあります。元々はアイヒェンドルフの短編小説『航海』の挿入詩で、16世紀のスペインの探検船「フォルトゥーナ」号の乗組員サンチェス少尉の歌です。勇敢だが荒くれで酒乱のサンチェス少尉が、酔って騒動を起してからつぶれて眠ってしまい、目を覚ましてからまた酒を飲みながら歌います。ただし小説中のものは三連七行目が「その間に俺たちはフォルトゥーナ号に乗り」となっており、詩集に収めるに際し、小説の設定に限定されないためと思われる改訂が施されています。二連目の馬の話は脈絡がありませんが、プライ盤(エンジェル)の対訳の西野茂雄氏は荒馬=荒波と解釈しています。それにしてもまたしても中世が舞台、そして運命の女神フォルトゥーナの名。アイヒェンドルフはよほどそれらがお好きなようです。Seemannは普通「船乗り」ですが、思いつきで文字のままで同義の「海の男」にしてみました。
 ヴォルフの曲は性急で荒々しく、歌詞の内容を考えるとかなり滑稽です。「嵐のように」と指示されたピアノ序奏の和声はブルックナーを驚かせたと伝えられています。この曲はヴォルフのアイヒェンドルフ歌曲集の終曲になっており、ちょうどイタリア歌曲集のあの痛快なフィナーレを思い出させます。
演奏はフィッシャー=ディースカウの水際立った歌、プライの共感豊かな歌も楽しいですが、この曲には幸いなことにホッターの録音があります。その抜群のユーモア感覚は、声を聴いているだけで笑がこみ上げてくるほどです。

( 2005.10.26 甲斐貴也 )


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