Der Scholar Gedichite von Eichendorff für eine Singstime und Klavier |
学生 アイヒェンドルフ歌曲集 |
Bei dem angenehmsten Wetter singen alle Vögelein, klatscht der Regen auf die Blätter, sing ich so für mich allein. Denn mein Aug' kann nichts entdecken, wenn der Blitz auch grausam glüht, was im Wandern könnt' erschrecken ein zufriedenes Gemüt. Frei vom Mammon will ich schreiten auf dem Feld der Wissenschaft, sinne ernst und nehm' zu Zeiten einen Mund voll Rebensaft. Bin ich müde vom Studieren, wann der Mond tritt sanft herfür, pfleg' ich dann zu musizieren vor der Allerschönsten Tür. |
天気の良いときは 小鳥たちが歌ってくれる 雨が木の葉をたたくときは ひとりぼっちで自分に歌う 稲妻が恐ろしげに光っても 僕は目を向けもしない 旅をするのは楽しいばかり 怖いものなど何もない お金なんかに縛られず 学問の道を歩んでいこう 真摯に思考し、そして時には 葡萄の汁で喉うるおす 月が静かに昇るころ 勉強にも疲れた時は 楽器の演奏などするとしよう 飛び切り美人の家の前で |
アイヒェンドルフの小説『詩人とその仲間たち』”Dichter und ihre Gesellen”の挿入詩。シューマンのリーダークライス作品39の6「美しい異郷」もこの小説の詩です。小説中ではもちろんタイトルはなく、後に詩集に収められた時には「遍歴の学生」”Der wandernde Student”というタイトルになっていますが、歌曲の方に、主に中世の学生を指す”Der Scholar”というタイトルをつけたのがヴォルフかどうかは確認できませんでした。
ヨーロッパ中世の学生に旅は付き物で、優れた教授の教えを乞うため諸国の大学都市を渡り歩き、パリやボローニャで学ぶために時には1000キロもの道を歩き、アルプスを越えるなど大変な距離を旅することもあったそうです。今日のように庶民が手軽に旅行が出来るようになったのは、交通機関が発達した産業革命以後のことで、中世ではほとんどの人々は生まれた地を一生離れずに生涯を送りました。親から援助を受けて大学に行ける学生は一般庶民より裕福な人々ですが、異なる世界を見聞できる旅の喜びは大きく、長く遠い旅の辛さに勝るものであったようです。旅することの喜び、そして「若いうちに楽しもう」という自由の謳歌、この詩にはそんな中世の学生の気風が凝縮されていると見ていいでしょう。喜多尾道冬氏の訳ではタイトルが「遍歴の学生」になっていますが、それは単に詩集での題名に基づいたのではなく、”Der Scholar”の意訳でもあるのでしょう。非常に肯ける訳と思います。
大抵の訳では「葡萄の汁”Rebensaft”」はワインと訳されています。韻を踏むための語の選択と言えばそれまでですが、学生が親の金で酒を飲むとは何事か、と言われないようにわざとらしく言い換えるユーモアのようにも思い、ここは直訳にしておきました。第四連も、中世の学生はラテン語、修辞、論理、算術、幾何、天文とともに音楽が必須だったそうなので、楽器を演奏すること自体は勉学の延長と考えられます。但し美人の家の前で、というわけです。
ヴォルフの作曲は軽妙なもので、いかにも学生の戯れ歌風に聞えます。演奏では、ヴォルフ協会のエルプ(T)がかなりユーモラスに歌っていますが、この曲もやはりヘルマン・プライが一番の名調子を聞かせてくれます。シュテファン・ゲンツやボー・スコウフスの若々しい歌声はいかにも学生らしくて楽しく聴けます。
参考文献:横尾壮英『中世大学都市への旅』(朝日選書)
( 2005.10.09 甲斐貴也 )