Wanderlied Op.3-4 5 Lieder |
さすらいの歌 5つの歌曲 |
Von dem Berge zu den Hügeln, Niederab das Tal entlang, Da erklingt es wie von Flügeln, Da bewegt sich's wie Gesang; Und dem unbedingten Triebe Folget Freude,folget Rat; Und dein Streben,sei's in Liebe, Und dein Leben sei die Tat. |
山を進み、丘を越えて、 谷沿いに下って行くと、 羽音のような響きが鳴り渡り、 歌のように進み行くのだ。 そして抑え難い衝動の後で 得るものは、喜びと教訓。 そして愛する時にこそ、努力を惜しむな。 さらに行為がお前の生命であれ。 |
ゲーテの長編小説「ヴィルヘルム・マイスターの遍歴時代」の第3巻、第1章の中に、主人公のヴィルヘルムが2人の若者に所望されて自作の歌を記した紙を差し出す箇所がある。その紙に記されていたのがこの8行からなる詩である。後に詩集に収められた時は2節加わり3節構成になっているが、小説の中でヴィルヘルムが作ったのはこの第1節のみであり、宿で知り合った歌手たちがヴィルヘルムの作品に続けて歌った歌が第2・3節にあたる。小説の中には「さすらいの歌」というタイトルが出てこないので、ヴォルフはおそらく詩集を見て作曲したものと思われるが、彼が自筆譜に第1節の歌詞しか記していないのは、小説の設定を考慮したのかもしれない。
ゲーテは人生訓を好んで歌ったが、この詩では人生の道程をさすらいになぞらえており、積極的な行動力をもって生きていくことを説いている。
一方、詩集に収められた第2節ではこのさすらいが失恋を癒すものであるという設定が明らかになる。
ヴォルフが第1節のみを記したのは、あるいは内容を限定するような第2節以降を省くことによって、第1節の普遍性を保とうとしたのかもしれない。
この詩に作曲されたヴォルフの作品はOp. 3というタイトル頁をもった楽譜帳の4番目に置かれているので、Op. 3-4とみなされている。しかし自筆楽譜を見てみると、タイトルの右横に鉛筆で”Op. 4 No 1 (Quartett)”と書かれている。これはこの独唱曲が書かれた後で四重唱曲に編曲されて、それに対してOp. 4-1という作品番号を与えたのではないかというのが一般の見方だ(例えばフランク・ウォーカーによって)。ただ、四重唱曲は残されておらず、本当に編曲されたかどうかは確定できない。逆にこの独唱曲が四重唱曲の下書きである可能性もあるが推測の域を出ない。いずれにせよ、ピアノパートの和音の連なりは重唱曲にふさわしいことは確かである。ほかの作品3の曲同様、1875年8月以前の作曲であることが分かっている。8分の6拍子で速度表示はなく、ト長調の素直な旋律と和音の連なるピアノが一貫している。最後の8小節分のピアノ左手パートが書かれていないため未完作品として松川儒のヴォルフ全曲プロジェクトでも演奏されなかったが、多声的な表現への最初の試みとして一度聞いてみたいものだ。
( 2005.09.18 フランツ・ペーター )