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Chervjak    
 
虫けら  
    

詩: クローチキン (Vasily Stepanovich Kurochkin,1831-1875) ロシア
      La senateur 原詩: Pierre-Jean de Béranger ベランジェ

曲: ダルゴムイシスキー (Alexander Sergeyevich Dargomyzhsky,1813-1869) ロシア   歌詞言語: ロシア語


Ja vsej dushoj k zhene privjazan;
Ja v ljudi vyshel... da chego!
Ja druzhboj grafa ej objazan.
Legko li! Grafa samogo!
Delami tsarstva upravljaja,
On k nam zakhodit,kak k rodnym.
Kakoe schast’e! Chest’ kakaja!

Ved’ ja chervjak v sravnen’e s nim!
V sravnen’e s nim,litsom takim,
Ego sijatel’stvom samim!


Zhena sluchajno zakhvoraet
Ved’ on,golubchik,sam ne svoj,
So mnoju v preferans igraet,
A noch’ju khodit za bol’noj!
Priekhal raz,v zvezdakh sijaja,
Pozdravit’ s angelom moim...
Kakoe schast’e! CHest’ kakaja!

Ved’ ja chervjak v sravnen’e s nim!
V sravnen’e s nim,litsom takim,
Ego sijatel’stvom samim!


A kak on mil,kogda on v dukhe!
Ved’ ja za rjumkoju vina khvatil odnazhdy:
Khodjat slukhi,chto budto,graf... moja zhena...
Graf,govorju,priobretaja,
Trudjas’,ja dolzhen byt’ slepym!
Da oslepit i chest’ takaja!

Ved’ ja chervjak v sravnen’e s nim!
V sravnen’e s nim,litsom takim,
Ego sijatel’stvom samim!

私は妻に頭が上がらない
私が社交界に入れたのも…それにどうだ!
伯爵閣下とお近付きになれたのはすべて妻のお陰。
なんと!閣下御自らとだぞ!
王国の諸事に取り組まれておられながら
閣下は私共のところへ親類のようにおいで下さる
何たる幸運! 何たる名誉!

所詮、私など虫けらだ  閣下のようなお方に比べれば
閣下のようなお方に比べれば、あのような傑人と
かの輝かしき人物おんみずからと


妻が急に病気にでもなろうものなら
閣下はすぐに駆けつけてこられる
そして私とトランプをしながら
夜遅くまで病人の側に付き添う
そして再び来られるときは、星の輝きで
我が守護天使の日を祝福下さる
何たる幸運! 何たる名誉!

所詮、私など虫けらだ  閣下のようなお方に比べれば
閣下のようなお方に比べれば、あのような傑人と
かの輝かしき人物おんみずからと


実に心優しいお方だ ご機嫌麗しい時は!
そういえば一度、しこたまワインを召し上がられられた時
噂が広まってますな、例えば、伯爵閣下と...我が愚妻の...、
伯爵閣下、ですが申し上げます、給料を得て
働く者ゆえに、私は盲目となりましょう
ええ 盲目となる名誉をお受けしましょう

所詮、私など虫けらだ  閣下のようなお方に比べれば
閣下のようなお方に比べれば、あのような傑人と
かの輝かしき人物おんみずからと

帝政ロシア時代にこのような階級制度を皮肉る辛辣な詩に曲が付いたものが作られていたとは何とも不思議な気がするのですが、このダルゴムイジスキーという人は他にも結構過激な歌曲を残しています。まあ、ムソルグスキーなども辛辣な社会風刺の歌はいろいろ作っていますから(でもダルゴムイジスキーの方が先輩)、意外となんとかなっていたのかも知れません。
曲のムードは、ムソルグスキーをあっさり目にしたようなもので、ユーモラスな早口が印象的です。
ダルゴムイシスキーはロシア歌曲の世界では、グリンカとムソルグスキーをつなぐ重要な作曲家とされており、録音も多いのですが、歌曲以外ではほとんど無名かもしれません。
(スヴェトラーノフが指揮した管弦楽曲集とかいうのがあって結構面白かったりもするのですが)
さて、この曲はブルガリアのバス歌手、ギャヴロフのお気に入りのようで、彼の新旧のロシア歌曲集の両方ともこの曲を取り上げています。全盛期の美声(Decca 1971録音)も捨て難いのですけれども、ちょっと叙情的に過ぎてキレに欠けます。やはり円熟のBMG盤(1993録音)がこういった曲は最高の技です。伯爵との確執を淡々と語る主部(リタルダンドが心憎い)に、ひたすらホメ殺し のリフレインの歯切れの良さ、ピアノ伴奏の元気の良さと、どれを取っても言うことなしです。
  (2000.04.23)

この訳詞もかなりお粗末な内容でしたので、原詩をもう少し読み込んで大改訂を施すこととしました。もともとはフランスの詩人ピエール・ベランジェ(Pierre Jean de Béranger (1780-1857) )の詩「La senateur(元老院議員殿)」をロシア語訳したもの。共和制のフランスですので伯爵閣下ではなくて議員殿になってはおりますが、いつの世でも、そしてどんな政治形態でも横暴でわがままな権力者と、そしてそれに泣き寝入りをせねばならない下々の者、という構図は変わらないのですね。フランス語の方の原詩も訳したかったのですが、ちょっと長くて難しかったので断念しました。ロシア語詞にはない(クローチキンが訳さなかったのかダルゴムイシスキーが歌に取り上げなかったのか、多分後者だと思いますが)部分に、議員が大臣と一緒にこの男の妻を舞踏会に連れて行くなど、あの手この手でこの男と妻を引き離す手練手管を取り上げていてけっこう面白そうではあるのですが。
ただリフレインの部分はクローチキンのロシア語詞の方が皮肉が強くて面白いです。フランス語の原詩ではこうなっています。

  Quel honneur!
  Quel bonheur!
  Ah! Monsieur le sénateur,
  Je suis votre humble serviteur.

  なんたる名誉!
  なんたる幸福!
  ああ!元老院議員閣下、
  私はあなた様のつつましき下僕でございます。

( 2008.09.24 藤井宏行 )


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