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鎮魂頌    
 
 
    

詩: 折口信夫 (Origuchi Shinobu,1887-1953) 日本
      

曲: 信時潔 (Nobutoki Kiyoshi,1887-1965) 日本   歌詞言語: 日本語


思ひみる人の はるけさ
海の波 高くあがりて
たたなはる山も そそれり 
かそけくもなりにしかなや
海山のはたてに 浄く 
天つ虹 橋立ちわたる

現し世の数の苦しみ 
たたかひにますものあらめや
あはれ其も 夢と過ぎつつ 
かそけくも なりにしかなや
今し 君 安らぎたまふ 
とこしへの ゆたのいこひに

あはれ そこよしや あはれ はれ 
さやけさや 神生まれたまへり 
この国を やす国なすと
あはれ そこよしや 
神ここに生まれたまへり



柳田国男の高弟として知られる民俗学者にして国文学者の折口信夫(釈超空のペンネームで歌人・文学者としても活躍)が戦没者を追悼するために昭和23年に作った詞に、昭和34年、靖国神社創立90年を記念して信時潔に作曲が委嘱され、團 伊玖麿指揮の二期会合唱団で演奏された、と記録にある歌です。
今議論がかまびすしい公式参拝にからむ靖国神社にまつわる歌ですので、この時期に取り上げること自体ちょっとためらわれてしまうところもあるのですが、くしくも今日8月1日は作曲者の信時潔の没後40周年に当たることもあり、どこかの国の昔の総理大臣よろしく8月15日を外してこの日に取り上げることにしました(さて今年の参拝はどうなるんでしょうか???)。

日本語の文語の伝統もぷっつりと切れてしまった今となっては、この歌詞もまるで暗号を読むかのように難解なのですが、やわらかなやまとことばの響きと共に美しい追悼のことばが流れるのは、意味が十分に取れなくても魅力的。特に第2節の安らかな美しさはどうでしょうか。確かに第3節は思想信条によって好みが分かれるかも知れませんが、死者を神として祀るこの国の伝統は菅原道真などを例に取るまでもなくとても古くからあるところ。決して「軍神広瀬」や乃木・東郷神社etcといった明治以降の軍神云々の切り口だけで断罪するのはちょっと短絡的ではという気もしなくはありません。
(もちろん靖国神社自体が明治に生まれた国家主義の産物ですから、神道の伝統を巧妙に利用した、という見方もできなくはないのですが...)

そんなこんなの現世のドロドロを忘れるかのような、まるでハイドンのオラトリオでも流れているかのような重厚な信時の音楽。私には彼の音楽の中でも「海ゆかば」よりは数段魅力的に聴こえるのですが、靖国にまつわる音楽のためか聴くことができるのは靖国神社で売っているCDの中に収録されているもののみのようです(これは未聴)。だいたい靖国神社に私が行ったのが小学生の時に母方の祖父母が上京してきたのに同伴したのが最初で最後ですし。
といいつつ、靖国の地方支部ともいえる護国神社のひとつ、宮城県の護国神社ではこの「鎮魂頌をうたう」という活動をやっていて、このサイトで楽譜を見、歌を聴くことができます。私がこの歌を詳しく知ったのもこのサイトをたまたま見つけたことからでした。

http://gokokujinja.org/index.htm

かつては山田耕筰と並ぶ日本歌曲の大作曲家とみなされていた信時ですが、没後40周年を迎えてもうかなり忘れられてしまったかの感があります。
(10年前の没後30周年には畑中良輔さん他の歌で、代表作「沙羅」他を入れた記念盤が出ましたが、今年はキングから「海ゆかばのすべて」が出たくらいでしょうか?)
確かに地味な曲が多く、そんなに人気爆発という風にはいかないとは思いますが、それでも今の扱いは不当に近い忘れられ方かも知れません。「海ゆかば」の作者としてのみ後世に名を残すというのでは作曲家としてもあまりに不本意なのではないでしょうか。
(といいつつ私もこんな曲を取り上げているわけではあるのですけれども...)

( 2005.08.01 藤井宏行 )


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