軍隊小唄 |
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嫌じゃありませんか 軍隊は 金(かね)のお椀に 竹の箸 仏様でも あるまいし 一膳メシとは 情けなや 腰の軍刀に すがりつき つれて行きゃんせ どこまでも つれて行くのは やすけれど 女乗せない 戦車隊 |
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私もそうですが、今の30〜40代の方は、ザ・ドリフターズの「8時だよ 全員集合」を見て育った方が多いでしょう。もともとミュージシャンであった彼らは番組の中にも様々な歌を織り込んでいましたが、そんな中でも「いやじゃありませんか花子さん...ほんとにほんとにほんとにほんとにご苦労ね」(なかにし礼作詞)という哀調を帯びたメロディの曲はけっこう頻繁に取り上げられていましたのでご記憶の方も多いのでは?
実はこれは太平洋戦争も末期に歌われた、上にご紹介した歌詞の「軍隊小唄」が元なのです。もっともこの歌にも更に元歌があって、昭和14年の戦時歌謡「ほんとにほんとに御苦労ね」(詞:野村俊夫・曲:倉若晴生・唄:山中みゆき)、「泥にまみれた軍服を洗う姿の夢を見た」や「進む前線弾の中 ニュース映画を見るにつけ」と、銃後の立場から兵士たちの苦労に同情するかのような歌なのですが、これに誰とは無く付けられた替え歌がこれです。あのご時世に「いやじゃありませんか軍隊は」なんて後ろ向きの言葉が公式に歌われたはずもないのですが、実際に最前線に駆り出されて働かされる兵士たちは率直です。替歌ならではでいろいろバリエーションがあって「欠けた茶碗に竹の箸」だったり「女乗せない潜水艦」だったりしますが、戦後知られるようになった一番ポピュラーな歌詞はこれのようです。
リフレインの「ほんとにほんとに御苦労ね」は替え歌では歌われなかったようですが、結局元歌よりもこちらの方が歴史に残ってしまいました。
(というよりもこれを下敷にしたドリフの歌が残った、ということでしょうか?でもこれすらも今の20代以下の方はご存知ないでしょうかね)
戦争が終わってこの曲や「可愛いスーちゃん」など、若い兵士たちの愛唱した歌たちを取り上げた田端義夫、あるいはこれもドリフの替え歌「学校帰りの森陰で...」で知られている(最近は氷川きよし版がヒットした)「ズンドコ節(海軍小唄)」を「街のみんなが振り返る」ナイスなマイトガイの歌にした小林旭などのおかげで、先の大戦で散った若い兵士たちの歌と知られることはなくとも歌としては戦後も残ることになったのです。
でも実をいえばドリフターズはこの歌のオリジナル(といいますか正確にはこの「軍隊小唄」から2節と、3番以降に原曲の「ほんとにほんとに御苦労ね」を繋げたハイブリッド)を「軍歌だよ!全員集合」というタイトルのアルバムの中で吹き込んでいます。「軍歌だよ!」とはいいながら収録曲の中でもこの曲や「ズンドコ節」「可愛いスーちゃん」「ダンチョネ節(特攻隊節)」は兵隊の間で歌われた厭戦歌みたいなものですし、古くから歌われていた「戦友」や「麦と兵隊」などもどっちかというとヒューマニスティックな味の方が強い曲。明るくユーモラスな「月月火水木金金」や「加藤隼戦闘隊」に「ラバウル小唄」なども含め、ディープな軍歌ファン(私のことではないですよ)には「どこが軍歌やねん」と突っ込まれること必定な選曲と演奏ではありますが、川口真の見事な編曲(私たちの世代には「ウルトラマンタロウ」などの音楽でおなじみ。荒井注がメンバーだった時代のドリフのヒットソングの多くが彼の編曲です)と、ドリフのユーモラスな歌声もあいまって何とも味のある仕上がりになりました。
レコード会社各社より出ている「思い出の軍歌」とかいうようなアルバムでは目を三角にして悲壮に絶叫するステレオタイプの歌い方が多い中、この味わいは捨てがたいものがあります。こんな感じの多彩な路線でこれらの歌を歌い継いで行っていれば、あるいは戦争のことが忘れられていく速度が少しでも遅くできたような気がするのですが、街中を行く街宣車がけたたましく流す「いざ行け つわもの 日本男児!」(出征兵士を送る歌:昭和15年の戦時歌謡です)とかいった感じの典型的な目を三角にした軍歌の悪いイメージに押されてその後はほとんど誰も手掛けなくなってしまいました。あとは異色の解釈をしている人としては森繁久弥さんくらいでしょうか(この人の歌も軍歌ファンには評判がよくないようです。確かに歌い崩し方が半端ではない)。
1970年代という、まだ反戦・反権力運動がとても盛んだった時代にこんなアルバムを出していた彼らのミュージシャンとしての気概に触れて、戦後60年を今年振り返るのも悪くないかな、と思います。現在でもドリフの「軍歌だよ!」、彼らのベストアルバム(赤盤)に収録されています。「軍歌なんて戦争好きのウヨクの聴くもの」という偏見をお持ちの方にぜひ聴いて頂きたいものです。
蛇足ですが、ドリフによる替歌(花子さん)の方は「ほんとにほんとにほんとにほんとにご苦労ね」、元歌の野村俊夫詞は「ほんとにほんとにご苦労ね」で同じメロディにはめています。替歌の方が気忙しい現代人には合っているでしょうか(というよりも私は替歌の方で育ったので、元歌のこの部分はとても悠長に聴こえます)。
( 2005.07.21 藤井宏行 )