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Bali Hi    
  South Pacific
バリ ハイ  
     ミュージカル「南太平洋」

詩: ハマースタインU世 (Oscar Greeley Clendenning Hammerstein II,1895-1960) アメリカ
      

曲: ロジャース (Richard Rodgers,1902-1979) アメリカ   歌詞言語: 英語


詩:著作権のため掲載できません。ご了承ください
バリハイはあなたを呼んでいる
夜も昼も呼んでいる
あなたの心に響くかしら 島があなたを呼ぶ声が
「おいで おいで」と呼ぶ声が

バリハイはそっとささやく
海を吹く風にのせて
「ここがあなたの特別な島
 はやく はやくいらっしゃい」と

(詞は一部分の大意です)


1947年にジェームス・ミッチェナーが書いた短編集「南太平洋物語」から2編を抜き出して、作詞:オスカー・ハマースタイン2世・作曲:リチャード・ロジャースのコンビの第4作目として作られたミュージカルがSouth Pacific(南太平洋)でした。1949年にブロードウエイで幕を開け、その後5年間のロングランを続けたヒット作で1958年には映画にもなっています。
実はこの作品の筋書きに重たい影を落としているのは太平洋戦争。明るい音楽で彩られてはいますが舞台は日本軍との戦いに明け暮れている南洋戦線、登場人物のひとりで、島の美しい娘レイアットと恋に落ちる海軍中尉のケーブルは最後には戦死して戻ってきません。
主人公の従軍看護婦ネリーの恋人、フランス人の農園主エミールも最後には戻ってきてハッピーエンドとなるものの、ケーブルと決死の偵察行動に出て一時生死不明となります。

日本側の戦記でも、アメリカと直接対峙した激しい戦闘の舞台として記憶されている南洋の島々、今やリゾート地として人々を惹き付けるところにもそんな歴史があることに思いを馳せてみるのも価値があるのではないでしょうか。しかも戦後作られたフィクションだとはいえ、この舞台の上でのアメリカ軍兵士たちの明るさと余裕。かたや兵站が伸び切った上に食料や弾薬の補給をあまり考えなかった日本軍が、最前線のほとんど精神力だけで保っていた苦境と比べるとなんとも言えない感慨に耽ってしまいます。

初演の舞台ではオペラ歌手のエツィオ・ピンツァによって演じられた農園主エミールの名唱「魅惑の宵」や、当時ミュージカル女王として絶頂期にあったメリー・マーティンの演じたネリーの歌うお茶目なワルツ「ア ワンダフル ガイ」、そして故郷から遠く離れた南の島で欲求不満を募らせる水兵たちのコミカルなナンバー「女が一番」と素敵な曲が満載のこの作品ですが、やはり一番南太平洋の情景を思わせて印象的なのは島の女ブラディ・メリーが歌うこの歌「バリハイ」。休暇をとってこのバリハイ島に向かう若い士官ケーブルを誘う幻想的な歌です。歌詞の内容は「草津よいとこ 一度はおいで」とあんまり変わらないような観光ソングなのですが、幻想的な秘境に誘う歌としては実によく出来ていますし、事実ケーブルはこの島で美しい娘レイアットと運命的な出会いをします。

現地の娘とアメリカ兵の恋物語といえば、「マダム・バタフライ」の時代から「ミス・サイゴン」に至るまで数限りなく作られてきたのですが、この物語では珍しく男の側が死を迎えることで恋が実らないというストーリー展開。開放的な南国ではこういった異人種同士の恋も暖かく見守られたのでしょうけれども(実際娘の姿を暖かく見守る母ブラディ・メリーの「ハッピートーク」という歌もあります)、ニューヨークの観客の中にはこのラブシーンが気に食わなかった人もいたようで色々と抗議もあったようです。何せ未だにタブーのようになっている白人と黒人の結婚を連想させるのが許せないのだとか。こちらのカップルをハッピーエンドにできなかったのにはそんな理由も影を落としているのでしょうか?
確かに「マダム・バタフライ」でチョーチョーさんがピンカートンに連れられてアメリカに凱旋する、というシーンはちょっと考えがたいものがありますし、アメリカの保守的な人々には許せそうもない筋のように思えます。

ピンツァやマーティンなどと一緒の1948オリジナルキャストでこの歌を歌ったのがアニタ・ホール。録音が残っていますが凄い貫禄です。
映画でもこの人が演じていますが、歌声はどうも吹き替えだという話が(確認は取れていません)。音楽的には映画になったものの方が濃厚なのですが、私はブロードウエイ版の方が生き生きした味があって好きです。確かに南の島っぽい熱い情緒は映画版の「バリハイ」の方がありますがちょっと作りすぎの感じ。映像と一緒だと違和感はないのかも知れないですけれども...

今回、他にどんな録音があるのかな、と検索してみて目を引いたのが、日系のミュージカル歌手としてブロードウエイの舞台で主役をはったこともあるパット鈴木がこのブラディ・メリーを歌っている1996年のスタジオ・レコーディング。1950年代に活躍されていた方ですから、96年といったらもう結構な歳だと思うのですがこれはかなり興味深いです。しかも日本と因縁深い太平洋戦争がテーマのミュージカル。彼女の恐らくほとんど最後の歌声になるのでしょうか(まだご存命中なのかも知れません。失礼があればご容赦ください)。いずれ聴いてみようと思います。

日本での上演では1999年、滝田栄のエミール、一路真輝のネリーでの東宝ミュージカルの公演で前田美波里が歌っている録音があるようです。ちょっと彼女のキャラクターとは違うような感じがするのですが(もっと何か陰のある人の方がこのメリー役には合いそうです。野際陽子さんとか...まあ観ていないので勝手な感想ですが)、Victorのサイトで試聴してみた限りではそんなに悪くなかったです。さすが長年ミュージカルで鳴らした人だけのことはあるということでしょうか。

1958年のMGM映画、例によって私はロジャース&ハマースタインのコンビの作品はメロディは好きでも、舞台はどうも相性が良くないのでこれも最後まで見通すことはできなかったのですが、南太平洋の美しいシーンは楽しめました。といっても撮影はほとんどハワイで行われ、そしてこの神秘の島バリハイのシーンだけは南シナ海に浮かぶ島、マレーシア領のティオマン島で行われたようです。
原作の舞台となったタヒチのモーレア島含め、南の島のリゾート各所でこの有名な観光資源であるミュージカルを競い合うように紹介しているのは微笑ましくもあります。

( 2005.07.12 藤井宏行 )


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