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She never told her love   XXVIa no.34  
  6 Canzonettas
彼女は決して恋心を語りませんでした  
     6つのオリジナル・カンツォネッタ 第2集

詩: シェイクスピア (William Shakespeare,1564-1616) イングランド
    Twelfth Night (十二夜) Act.2 Scene.4 She never told her love

曲: ハイドン (Joseph Haydn,1732-1809) オーストリア   歌詞言語: 英語


She never told her love,
But let concealment,like a worm in the bud,
Feed on her damask cheek...;
She sat,like Patience on a monument,
Smiling at grief.

彼女は決して恋心を語りませんでした、
しかし隠匿が、蕾に潜む虫のように、
彼女の薄紅色のほおを蝕んでいくにまかせていたのです。
彼女は座っていました、記念碑の忍耐像のように、
悲しみに微笑みかけながら。


ハイドンは器楽作品に劣らず声楽曲も多数作曲しているが、膨大な数の民謡編曲と共に、独唱歌曲は最も認知されていないジャンルだろう。50曲を越す彼の独唱歌曲は、英語によるカンツォネッタと、ドイツ語のリートがある。なかでは「人魚の歌」「船乗りの歌」「霊の歌」などが歌われる機会が多いと思うが、この「彼女は決して恋心を語りませんでした」も比較的ポピュラーな作品である。

詩はシェイクスピアの「十二夜(Twelfth Night)」第2幕第4場の中で、道化フェステ(Feste)が「来たれ、死よ」を歌って退場した後のヴァイオラ(Viola)の台詞から採られている。男装してセザーリオ(Cesario)と名乗っているヴァイオラが、仕えているオースィーノー(Orsino)に対する自らの恋心を姉(または妹)の話という設定に変えて告白している台詞によるもので、詩としての形をなしていない箇所にあえてハイドンが多少の取捨選択をして曲を付けているのが興味深い。だが、ある意味戯曲中の一つのクライマックスとも言える箇所なので、ハイドンが「十二夜」を熟読していたということかもしれない。

ハイドンの曲は1795年に出版された「6つのカンツォネッタ 第2集(6 Canzonettas,second set)」の4曲目で、悠然たるテンポの長大なピアノ前奏で始まるが、ためらいがちに3つの和音の上行が繰り返され、主人公の恥じらいを表現しているかのようだ。第1小節の主和音についてジェラルド・ムーアは『歌手と伴奏者』(音楽之友社)の中で「この意味がよくわからない」と書いているが、第4行の「記念碑の忍耐像」のようなじっと動かない様を表現しようとしたのではないか。歌はかみしめるような口調で一語一語を重みをもって表現しているが、とりわけ最終行の「Smiling」は何度も繰り返され、主人公のけなげさが強調されている。ピアノ後奏はシューベルトの「夜と夢」を思わせるゆったりとしたトレモロでしっとりと締めくくられる。テクストの短さにもかかわらず4分もかかる静かな情熱をたたえた作品である。

アーメリングElly Ameling&デームスJörg Demus(PHILIPS : 1980年7月):円熟期の歌唱だけに、せつない思いを込める声の表現に磨きがかかっている。デームスもピアノでよく歌っている。それにしてもハイドン歌曲全集の全曲がCDで復活することはないのだろうか。
F=ディースカウDietrich Fischer-Dieskau&ムーアGerald Moore(EMI : 1959年4月):女声用の作品を歌うことを頑なに拒んだF=ディースカウがこの曲を歌っているのが面白い。戯曲の設定を無視して詩だけ見れば男声が歌っても問題ないと判断したのか、それとも戯曲の中でヴァイオラが男装している時の台詞だからだろうか。演奏自体はF=ディースカウもムーアも丁寧で魅力的(男声だからだろうか、アーメリングたちと比べて第三者的な演奏)。

ほかにエリーザベト・シューマンElisabeth Schumannもこの曲を歌っていた。イギリス人による演奏も聴いてみたいものだ。

( 2005.06.19 フランツ・ペーター )


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