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Restauration (nach Durchlesung eines Manuskripts mit Gedichten)   Op.62-32  
  Das Holdes Bescheiden
元気回復(ある詩集の原稿を通読して)  
     歌曲集「善き慎み」

詩: メーリケ (Eduard Friedrich Mörike,1804-1875) ドイツ
    Gedichte  Restauration [nach Durchlesung eines Manuskripts mit Gedichten]

曲: シェック (Othmar Schoeck,1886-1957) スイス   歌詞言語: ドイツ語


Das süße Zeug ohne Saft und Kraft!
Es hat mir all mein Gedärm erschlafft.
Es roch,ich will des Henkers sein,
Wie lauter welke Rosen und Kamilleblümlein.
Mir ward ganz übel,mauserig,dumm,
Ich sah mich schnell nach was Tüchtigem um,
Lief in den Garten hinterm Haus,
Zog einen herzhaften Rettich aus,
Fraß ihn auch auf bis auf den Schwanz,
Da war ich wieder frisch und genesen ganz.

甘ったるいばかりで新鮮味も活力も無い代物だ! 
あらゆる臓腑がげんなりし
その臭いに殺されかねない
花は花でも萎れた薔薇か乾したカミルレだ
わたしはすっかり気分が悪くなり、吐き気に眩暈もしてきた
そこで何か効き目のあるものを探そうと
急いで裏庭に走り出て
滋養豊富な大根を一本引っこ抜き
てっぺんから尻尾までむさぼり食った
すると元通り元気はつらつ、すっかり回復したのである


 拙い詩を読んだ憤懣を大げさにぶちまけ、裏庭の大根を食べて治ったというとぼけたオチで締めるユーモア詩。この詩は普通、メーリケには珍しい他者の詩作品への風刺的哄笑とされているようですが、わたしの読みはちょっと違います。読んだのが出版された詩集ではなく、その「原稿」であることに注目すると、原稿に目を通せるというある程度近いであろう関係にある作者の作品を、他人の詩への批判の珍しいメーリケがここまで罵倒するかという疑問が湧きます。
 調べてみるとこの詩は1837年、メーリケ自身の詩集の初版出版直前に書かれた一連の詩のひとつですが、わたしはここで読まれた「詩集の原稿」とはメーリケ自身の詩集のものではないかと思います。初めての詩集の出版のための原稿に目を通し、自作の拙さばかりが目についてしまってげんなりする自分の姿を滑稽に描写して見せた詩と読んだのです。
 四行目のカミルレ(カミツレ)は、ヨーロッパではその花を乾燥したものが煎じ薬として広く用いられている植物で、近年我が国ではカモミールの名で知られています。カミルレは良い匂いのするハーブで、お茶にして飲んだりもしますから、これは前の行の臭いの話とはつながってはおらず、おそらく「萎れた薔薇」と並置して「見苦しい花=拙い詩」の隠喩となる「干からびた花」の意であろうと考え、多少言葉を補いました。ドイツに大根があるのかと不思議な気もしますが、南ドイツでは生の大根のスライスに塩を振ったものをビールのつまみにするのだそうです。見た感じも我が国の大根と良く似ています。
 シェックの作曲は詩に沿った楽しいもの。こういう歌曲となると演奏はフィッシャー=ディースカウの独壇場です。

( 2005.06.07 甲斐貴也 )


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