Cloths of Heaven The wind among the reeds |
天の布 蘆の間の風 |
Had I the heavens' embroidered cloths, Enwrought with golden and silver light, The blue and the dim and the dark cloths of night and light and the half light, I would spread the cloths under your feet: But I, being poor, have only my dreams; I have spread my dreams under your feet; Tread softly because you tread on my dreams. |
もし、僕が天国の刺繍のある布を持っていたなら 金と銀の光で織りなされ 夜と昼と夕暮れを表した 黒と青と薄紅色の布を持っていたなら 僕はそれを君の足元に敷いてあげるのに でも貧しい僕には夢しかない だからその夢を 君の足元に広げたんだ そっと歩いてくれよ 僕の夢の上なのだから |
ロマンチックというかキザというか、まさに紙一重の魅力を持った詩といえましょう。それはひとえに私の訳のせいで限りなくキザの方に近付いているからそう見えるということなのだと思いますが、なんとなく70年代フォークソングの歌詞のテイストも感じられる(財津和夫さんなんかが好んで書きそうな内容ではある)W.B.イエイツの有名な詩です。
映画「リベリオン」でも使われて日本でも一躍注目されたかのような感がありますが(実際この詩を引用している映画紹介のサイトがあふれるほどありました)、あまりクラシック音楽のファンには知られていない詩でしょうか。でも歌曲になると大変味わい深い魅力をかもし出します。
イギリスの作曲家が幾人もメロディを付けていますが、そんな中でもこの詩に付けた曲としては、やはりイギリス歌曲の美しいアンソロジー”Favorite English Songs”(Chandos フィリシティ・ロットのソプラノ、グレアム・ジョンソンのピアノ)あるいはイアン・ボストリッジのテナー&ウイリアム・ドレイクのピアノによるEnglish Songbookに収録されているトマス・ダンヒルの曲がとても素晴らしいです。
そんなに雄弁で分かりやすいメロディというわけでもないのですが、古い旋法などもほのかに漂わせながら楚々として秘めた熱情を歌うといった感じですので、この詩のつぶやくような味が最大限に生かされました。
こういう雰囲気の曲ではボストリッジのが絶品と思いますが、ロットの歌も捨てがたい味わい。私はまだ聴いていませんがフランツ・ペーターさんがクィルターのところで取り上げているブリン・ターフェルの最新のアルバムにも収められているようです。
作曲者は(少なくとも日本では)無名の人といって良いかと思いますが、こんな風にイギリス歌曲のアンソロジーを編む際にしばしば取り上げられるのは、イギリスの歌手の人たちの自国の歌曲に対する愛着と見識の高さでしょうか。
私も英国歌曲集は色々好んで聴きますが、このダンヒルに関しては記憶にある限りまだこの曲以外の作品を耳にしたことはありません。いわば偉大なる一発屋かと。歌曲の世界ではよくあることですが、できればその他の作品も誰か掘り起こして欲しいものですね。
( 2005.07.03 藤井宏行 )