Le Dormeur du Val Univers de Rimbaud |
谷間に眠る人 ランボーの宇宙 |
C'est un trou de verdure où chante une rivière Accrochant follement aux herbes des haillons D'argent; où le soleil de la montagne fière, Luit; C'est un petit val qui mousse de rayons. Un soldat jeune bouche ouverte,tête nue, Et la nuque baignant dans le frais cresson bleu, Dort; il est étendu dans l'herbe,sous la nue, Pale dans son lit vert où la lumière pleut. Les pieds dans les glaïeuls,il dort. Souriant comme Sourirait un enfant malade,il fait un somme: Nature,berce-le chaudement: il a froid. Les parfums ne font plus frissonner sa narine; Il dort dans le soleil,la main sur sa poitrine Tranquille. Il a deux trous rouges au coté droit. |
歌っている川のほとり、草むらにひとつの穴 銀色のボロ着が無造作に草にかかっている そびえ立つ山の上から陽が差し 輝く。そこはまぶしいばかりの小さな谷間だ 若い兵士が、何も被らず、口を開け 青々と涼しげな草の中に襟首を沈めて 眠っている、青空の下、草むらの中 降りそそぐ光の下、緑のベッドで 青ざめて 足元にはグラジオラス、彼は眠る まるで病気の子供のように微笑んで 彼はうたたねしている 自然よ、やさしくさすっておやりよ、彼は冷え切っているのだから 花の香りにももはや鼻を動かすことなく 彼は日差しの中で眠る。片手を静かな胸に乗せて 右の腹部には ふたつの小さな赤い穴 |
フランスの詩人の中で、いや世界の詩人の中でも高い人気を誇るアルチュール・ランボーですが、意外なことにクラシックの歌曲にはほとんどなっていないのでした。フランス系の作曲家はみな避けて通っているような感じで、彼の詩に曲が付けられた有名な作品としてはイギリスの作曲家ベンジャミン・ブリテンによる歌曲集「イルミナシオン」くらいしかないのではないでしょうか。
今回取り上げるのもフランスの人ではなく、オランダの前衛作曲家ルドルフ・エッシャーの作品です。彼には「Univers de Rimbaud(ランボーの宇宙)」という作品があり、そこではランボーの初期詩篇を中心に5つの詩が取り上げられています。
1. Le Mal 悪
2.Le Dormeur du Val 谷間に眠る人
3.L'Etoile a pleure rose... 星はバラ色に泣いた
4.Oraison du soir 夕べの詩
5.Ma Boheme (Fantaisie) わが放浪(ファンタジー)
はじめの2篇はプロシャとフランスとの戦争をテーマにした詩、あとの3篇は象徴詩あり、ユーモラスなものありと多彩ですが、いずれもランボーの天才を感じさせる素晴らしいものです。
今回原詩をじっくり読み込んでみましたが、この「谷間に眠る人」の情景描写の巧みさはどうでしょう。のどかな自然の中でうたた寝をしているのかと思ったら、だんだん雰囲気が怪しくなってきて、そして最後にこれが何のことを歌っているのかが分かります。戦場となったところではこういう戦慄的な光景がそこかしこに見られたのでしょうか。普段死というものと向き合うことのない平和な日本では考えられないですが、これもまた戦争なのだ、ということを強く感じます。
エッシャーの作品は、メシアンの曲のような濃厚なオーケストレーションに付けたけっこう重たい作品。それがこのような戦争を題材とした歌にはたいへん効果的です。
入手は厳しいかも知れませんが、オリンピアレーベルにあった「オランダ作曲家の400年」というシリーズの第7巻に、ジロドーの迫力あるテナー、日本でもおなじみだった指揮者フェルディナント・ライトナー指揮ハーグ・レジデンティ管弦楽団の熱演で聴くことができます。
( 2005.06.04 藤井宏行 )