TOPページへ  更新情報へ  作曲者一覧へ


Phidylé    
 
フィディレ  
    

詩: ルコント・ド=リル (Charles-Marie-René Leconte de Lisle,1818-1894) フランス
      Phidylé

曲: デュパルク (Eugène Marie Henri Fouques Duparc,1848-1933) フランス   歌詞言語: フランス語


L'herbe est molle au sommeil
sous les frais peupliers,
Aux pentes des sources moussues,
Qui dans les prés en fleur germant par mille issues,
Se perdent sous les noirs halliers.

Repose,ô Phidylé!
Midi sur les feuillages
Rayonne et t'invite au sommeil.
Par le trèfle et le thym,
seules,en plein soleil,
Chantent les abeilles volages;.

Un chaud parfum circule au détour des sentiers,
La rouge fleur des blés s'incline,
Et les oiseaux,rasant de l'aile la colline,
Cherchent l'ombre des églantiers.

Repose,ô Phidylé!

Mais,quand l'Astre,incliné
sur sa courbe éclatante,
Verra ses ardeurs s'apaiser,
Que ton plus beau sourire et ton meilleur baiser
Me récompensent de l'attente!


草は柔らかく眠りを誘う、
苔むす泉の坂にある
涼しいポプラの木陰で、
泉は花咲く草原に千もの流れになって、
暗い林の中に消えていく。

おやすみ、おおフィディレ!
真昼は木の葉に輝き、
君を眠りに誘う。
クローバーとたち麝香草の中、
いっぱいの太陽を浴びて、ただ蜂たちだけが
飛び交い歌う。

熱い香りは小径の角を巡り、
赤い麦の花は頭を垂れる、
そして小鳥達は、翼を丘にかすめ、
野バラの茂みの影を探して飛んでいく。

おやすみ、おおフィディレ!

しかし、日が輝く曲線をくだり、
その熱さが和らぐとき、
君のもっとも美しい微笑みと
もっともすばらしい口づけが、
待ちわびる僕に報いてくれますように!


フランス歌曲の中でももっともドラマチックな曲の一つ。原詩はもっと長いもののようですが、デュパルクはそれを省略し、代わりに、二度目に出てくる「おやすみ、おおフィディレ!」を三度繰り返すことによって、冗長になることを避け、しかも絶妙の情感を出すことに成功しています。
静かな真夏の昼下がりの景色、涼しい木陰での午睡、そしてやがて盛り上がる熱気、やがて沈んでいく赤い夕日、かなり手の込んだテンポ、和声の変化でデュパルクは絶妙に描いてゆきます。最後の夕日の描写は、これも名作である『旅への誘い』のクライマックス部分に優るとも劣らないものでしょう。歌い手にも、かなりの声の力が要求される曲です。

高踏派詩人ルコント・ド=リルの作品には、この他にもフォーレが『リディア』その他を作曲しています。

デュパルクの作品は、『疾走』『波と鐘』のような中・低声に書かれたもの、『戦いの起こった国へ』のように内容的に女声向きに書かれたを除きますと、後はすべて高声用が原調であり、フォーレの歌曲がメゾ、バリトンに書かれたものが多いのと対照的です。…ところが、テノールによるフランス歌曲の録音というのはないもので、イギリスのイアン・パートリッジによるLPがお勧めですが、現在入手可能かどうか存じません。カナダのレオポルド・シモノーの録音はCDとして再発売されていますが、バッハやモーツァルトで本領を発揮するこのテノールには、ややこの濃厚な世界が合わないようにも思えます。以前、エクス・アン・プロヴァンスのリサイタル中継で、アメリカ人テノール、トマス・モーザーが、美しい声と発音で見事な演奏を聞かせてくれましたが、彼が録音しなかったのが悔やまれます。

( 2000.08.31 武田正雄 )


TOPページへ  更新情報へ  作曲者一覧へ