C’est mon ami |
それは私の恋人 |
Ah! S’il est dans votre village Un berger sensible et charmant, Qu’on chérisse au premier moment, Qu’on aime ensuite advantage, C’est mon ami,rendez-le-moi; J’ai son amour,il a ma foi Si,par sa voix douce et plaintive, Il charme l’écho de vos bois; Si les accents de son haubois Rendent la bergère pensive, C’est encor lui,rendez-le-moi; J’ai son amour,il a ma foi Si,même en n’osant rien vous dire, Son regard sait vous attendrir; Si,sans jamais faire rougir, Sa gaîté fait toujours sourier… C’est encor lui,rendez-le-moi; J’ai son amour,il a ma foi |
ああ!、あなたの村に 優しくてチャーミングな羊飼いがいて 初対面で人に好かれて 逢うたびにどんどん愛されていくならば それはわたしの恋人だから、私に彼を返してね 彼の愛は私のもの、私の心は彼のもの もし甘く優しい彼の声で 森のこだまを夢中にさせたり もし彼の牧笛のしらべで 羊飼いの娘をウルウルさせたなら それもあのひとなの 私に彼を返してね 彼の愛は私のもの、私の心は彼のもの もしあなたに何かを語りかけようとしなくても 見つめられただけでとろけそうになったのなら もし赤面させられるようなことがなくても 彼の陽気さがいつもあなたを微笑ませるなら それもあのひとなの 私に彼を返してね 彼の愛は私のもの、私の心は彼のもの |
以前聴いたフランスの往年の女優&歌手、イヴォンヌ・プランタンのCDにたまたま紛れ込んでいたのが、このフランス革命で断頭台の露と消えたフランスの王妃、マリー・アントワネット「作曲?」のこの曲でした。このCDには曲解説も歌詞もなかったものですから、本当に彼女が作ったものなのか?、同姓同名の作曲家がもしかしたらいるのではないか?などと私にとってはとても興味深い謎でした(2002年の春にジョルジュ・オーリックの歌曲「春」の紹介でこのプランタンのCDを取り上げ、そこでこのアントワネットの曲にも言及しています)
このたびドミニク・ヴィスのベストアルバムを聴く機会があり、実は彼女はまだ若かりし頃に結構な数の歌曲を書いていたこと、そのうちで最も有名なのがこの曲であることなどがようやく分かりました。この2003年のドミニクの録音の日本発売が呼び水となったのか、最近はソプラノ、唐沢まゆこさんも精力的に日本で紹介され、そしてついに今年2005年はマリー・アントワネット生誕250周年ということで新発見の歌曲を含めそれら十数曲を、あの「ベルサイユのばら」の劇画家で今やソプラノ歌手となられた池田理代子さん!が録音して11月に発売とのこと。
わずか数年でのポピュラリティの急変に驚くばかりです。
マリーはハプスブルグ家の皇女時代には有名なドイツのオペラ作曲家グルックに音楽を習っており、音楽も素人の手すさびとばかりは言えない域まで達していたようですね。この曲もおやっと思わせるような転調などもありなかなか聴かせてくれます。でも基本的には18世紀のお嬢様の曲、楚々とした味わいは上流階級の嗜みでしょうか。彼女の友人が書いたという詩も取り立てて技巧も毒もなく、淡々と流れていきます。日本語訳はちょっと頭の悪そうな表現になってしまいましたが、格調高く訳すよりもこの方が似合っているかな、という気がします。
録音は上記3種類を聴きました。やはり私の耳ではフランスの水谷八重子(?)、イヴォンヌ・プランタンの歴史的録音の貫禄ある歌唱が一番しっくり来ましたが、ドミニク・ヴィスのカウンターテナーでの洒落っ気や、唐沢まゆこさんの初々しさあふれる歌も面白く聴けました。池田理代子さんのはどうなるのでしょうね。
いろいろとネットを調べていると、アントワネットやこの曲に関する愛情溢れるサイトを見つけることができました。中でもここはオルゴールの音で可愛らしくアレンジされたMIDIでこの曲が聴けるばかりでなく、何枚かの肖像画も組み合わせながら彼女の生涯について思いを馳せています。
アントワネットのオルゴール
劇画「ベルサイユのばら」でも魅力的な人物像に描かれていたようですし(実は私は読んでませんが...)、実際の歴史を紐解いても、革命で捕らえられてから処刑されるまでの間は大変毅然とした態度であった、などとあります。歴史上の人物はとかく後世の人間によって恣意的なイメージが形作られるもの。あまり変な先入観を持つことなくもっと接してみたいものですね。
( 2005.05.28 藤井宏行 )