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公徳唱歌(風俗改善)    
 
 
    

詩: 石原和三郎 (Ishihara Wasaburou,1865-1922) 日本
      

曲: 田村虎蔵 (Tamura Torazou,1873-1943) 日本   歌詞言語: 日本語


上には萬世一系の 君を戴き奉り
忠勇無双の臣民が 下には四千六百萬

建国この方外国の 侮うけたる例(ためし)なく
亜細亜の東に立憲の 花を咲かせた日本国

立派な歴史を有(も)ちながら 立派な名誉を負ひながら
その人民に惜しむべし 島国根性がまだうせぬ

第一欠けたが公徳で つづいて乏しい公共心
かくても世界の日本と 大きなことが云はれうか

昔のたとへか知らねども 「旅の恥はかきすて」と
あついも程ある鉄面皮 あまりに世間が狭すぎる

かかる気取で欧羅巴 亜米利加あたりを旅したら
それこそ皇国(みくに)の恥さらし 吾が国民の面よごし

手ぢかい例は楽書よ あすこの塀やここの壁
墨でかくやら白墨や 釘のあたまや棒のさき

己の恥の雨ざらし 見られた事は書いてない
甚しいは学校や 役所や寺の堂はしら

あまりに尾篭の事なれど 共同便所へ入つて見よ
絵やら文字やらあやしげに 云ふも忌まわし汚らわし

又公園を散歩して 目につくものは制札に
この枝折るなこの土手に 上ってならぬと書いてある

かく厳重にしてあるに それでも木を折る枝も折る
土手にも上る芝もふむ そこらに唾も痰もはく

文明国へ行って見よ 制札なんどは一本も
立ててはないがその様な 不埒な事はないといふ

これらは上べの事なれど 上べの事より直さねば
心の中(うち)も直りゃせぬ よくよく注意をすべきこと

〜と、以下延々と46番まで説教が続きますが入力が大変なので以下略
 ご興味がおありの方は国会図書館のサイトをご覧ください。
 デジタルアーカイブになっていてネットで閲覧できます。
 楽譜も見られますので、どなたか実際の音にしてみませんか?
 著作権も切れていますし... 
 (学校で子供たちに歌わせろ、とはさすがに言いませんが)



明治時代の唱歌を探訪していると、「へえこんなのもあるんだ」と感動してしまうことがしばしばなのですが、中でもこの歌はとても強烈だったので取り上げることにしましょう。作詞:石原和三郎・作曲:田村虎蔵のコンビはあの鉄道唱歌の二番煎じ(といえなくもない)東京市内の市電めぐりの歌「電車唱歌」や、現在でも時々歌われる御伽噺を題材にした唱歌の「花咲爺」や「きんたろう」などを残した人々ですが、その幅広い活躍の中でこんな歌も出していたのでした。
これが作られた20世紀始まりの年1901年(明治34年)といえば日清戦争に勝利した後、いろいろな面で日本が近代化を推し進めつつあった時代、でも人々の習慣や心の方はなかなか新しい時代についてこれなかったことでしょう。そんなゆがみを埋めるために考え出された「うた」なのでしょうか?
ただこんな歌を明治時代の尋常小学校でいたいけな生徒が歌っていたとはちょっと想像がつかず...
まあ、明治の唱歌教育が生んだ仇花といってしまっても良いのかも知れません。

しかしこの歌が作られてからはや100年以上、未だにこの歌詞と全く変わることなく「その人民に惜しむべし 島国根性がまだ失せぬ」のはどうした訳でしょうか。
ネット時代になってからは更にひどく、匿名で書き込める掲示板やらでは「己の恥の雨ざらし 見られた事は書いてない」書き込みが全世界に向けて晒されるようになりました。最近あまりの寂れ方に廃止させて頂いた当サイトの掲示板にさえもなぜか執拗にアダルトサイトのリンクの書き込みをする困ったちゃんの存在だけは目立ちましたし...
匿名がいけないとは言いませんが、実名では恥ずかしくて書けないようなことを、名前が出ないのを良いことにただ欲望の赴くままに書き連ねるのはどう見ても「美しくない」と私は思うのですが。
偉い評論家先生は、「今は情報革命の中、数百年に一度の大変革のただ中にいる」というようなことをよくおっしゃっていますが、明治の近代化の頃同様、人の心はそれについて行けていないということなのかも知れませんね。

最近は家庭教育も学校教育も軟弱になって、状況はますますひどくなっている、と思えてしまうのは私も歳を取ったからでしょうか。はるか100年前にこの石原和三郎氏が同じような感慨を歌にしているわけですから、今ネットで醜い書き込みをしている人たちも実は中年や年寄りの方が多かったりして...

歴史は進歩するわけでもありませんし、あるいは先達がいつも高い道徳心を持って偉かったというわけでもありません。そんなことに思いを馳せられるのも昔の文物に触れられるから。もうちょっと明治の歴史もいろいろ紐解いてみましょう。

( 2005.05.31 藤井宏行 )


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