Nacht und Grab Op.3-1 5 Lieder |
夜と墓 5つの歌曲 |
Sei mir gegrüßt,o schöne Nacht, In deiner hehren Sternen Pracht! Mit weichen Händen bietest du Des Staubes Kindern deine Ruh. Oh Brüder,schlummert sanft den süßen Schlummer; Der neue Tag weckt euch zu neuem Kummer. Auch in den stummen Gräbern ihr, Ruht sanft von eurer Arbeit hier. Vergessenheit ist euer Los Und euer Obdach dieses Moos. Oh Brüder,schlummert sanft des Todes Schlummer, Kein neuer Tag weckt euch zu neuem Kummer. |
我が挨拶を受け給え、おお美しい夜よ、 汝の崇高なる星々の輝きの中で! 柔和な手で、汝は 塵埃の子らに憩いを差し延べる。 おお同胞よ、安らかに甘き眠りに就くがいい、 新しい日がお前達を新たなる悲しみに目覚めさせるのだ。 押し黙った墓の中のお前達も、 労苦から解き放たれて、ここで安らかに憩いなさい。 忘却は、お前達の担った宿命であり、 この湿地が、お前達の住処なのだ。 おお同胞よ、安らかに死の眠りに就くがいい、 新しい日がお前達を新たなる悲しみに目覚めさせることはないのだから。 |
フーゴ・ヴォルフの歌曲創作の出発点となったのは彼自身によって「Op. 3」という番号が与えられた5曲である(とは言っても生前に出版されたわけではなく、単なる整理番号である)。
これらの歌曲は1875年8月以前、ヴォルフ15歳の時に作られた。
第1曲の「夜と墓」だけがチョッケの詩で、ほかの4曲はゲーテの詩に作曲されている。
自筆楽譜はヴィーン市立図書館(Wiener Stadtbibliothek)にあり、25.5×32.3cmサイズの24枚に書かれている。
出版譜はヴィーン音楽学出版社(Musikwissenschaftlicher Verlag Wien)のヴォルフ全集7-3巻として1976年に初めて出版された。
若書きとして軽視されるのは仕方ないにしても、作曲家の出発点を知ることは決して無意味なことではないだろう。
詩を書いたヨーハン・ハインリヒ・ダーニエル・チョッケ(Johann Heinrich Daniel Zschokke,1771-1848)は政治家と作家の二つの顔を持った人で、小市民的な作風が特徴のようだ。
この詩は第1節で夜と現世の人、第2節で墓と来世の人を歌い、対比した内容になっている。
シューベルトもそうだが、若い頃は陰鬱な内容の詩に惹かれるものなのだろうか。
ヴォルフは有節形式で作曲しており、常識的な3連符の和音によるピアノの上を素直な短調のメロディが流れ、習作の域を出ていないのは明白である。
ただ、各節最終行の「weckt euch zu」の部分に「Recit.」(レチタティーヴォ)と指定されており、かすかにヴォルフらしさの萌芽を見ることも出来る。
第1節第1行の「schöne」(美しい)はチョッケの原詩では「stille」(静かな)であり、ヴォルフのケアレスミスなのか、それとも意図的な変更なのか判断出来ないので、ヴォルフの変更をそのまま生かした。
第1節第2行目の「Sternen Pracht」もチョッケの原詩では「Sternenpracht」と一語になっており、第2節第1行の「ihr」は原詩では「Ihr」である。
第1節最終行の「Der neue Tag」をヴォルフは間違えて「Der neuer Tag」と書いているが、上述の全集楽譜では「Ein neuer Tag」としており、これは編纂者の誤りである。
録音は今のところ無いようだが(F=ディースカウも録音しなかった)、2003年2月22日に川村英司と小林道夫という名手2人による実演があったようで聴き逃したのが残念である。
( 2005.05.16 フランツ・ペーター )