恋い恋いて たまさかに逢いて寝たる夜の 梁塵秘抄 |
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恋い恋いて たまさかに逢いて 寝たる夜の夢は 如何見る さしさしきしと 抱くとこそ見れ いざ寝なむ 夜も明け方になりにけり 鐘も打つ 宵より寝たるだにも飽かぬ心を や 如何にせむ |
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平安時代の末、源氏と平家が覇権を争っていた時代の京の都のはやりうた(今様)を、なんと後白河法皇が記録に残していたという「梁塵秘抄」 貴重な文化の記録として歴史学や古典文学の世界では重要な文献なのでしょうが、学校の授業で退屈な古典文学の講義ばかり聴かされた身には今まであまり関心をそそるものではありませんでした。けれども今回ふとしたことから現代邦楽の大御所ともいえる桃山晴衣さんが1981年に作曲・録音した梁塵秘抄のうたに付けた12曲からなるアルバムを聴くことができてすっかりその考えを新たにしました。確かに平安時代の古語はそのままではピンとこないところもあるのですが、こんな感じの艶かしい小唄もあり、わらべ歌あり、信仰告白の敬虔なうたありととても多彩で、桃山さんの自由自在な歌声とともにとても楽しい聞き物になっていました。何より彼女の歌い方では言葉がはっきりと聞き取れるのがうれしいです。
また梁塵秘抄自体、歌詞は残っているものの、それがどのようなリズム・メロディーで歌われたのかは記録に残っていないので、ここでは結構想像力を働かせた自由な音楽の再構築が図られ、新鮮な音楽として生まれ変わっていました。信仰告白の歌では「越天楽今様」のメロディが使われていたりして伝統音楽の雰囲気が濃厚ですが、他方でこんな感じの恋歌やわらべうたなどでは伴奏にも琵琶や竜笛のような当時もあったとおぼしき楽器だけでなく三味線や胡弓といった楽器から、さらにはウード・ダルシマーといったオリエンタル情緒あふれる楽器やダブロッカ、マラカスといった打楽器まで駆使して不思議な雰囲気の音楽にしています。
ここで取り上げたのは中でも艶かしい2つの曲。三味線の伴奏は江戸時代の小唄のようにも聴こえますし、かと思うとどことなく中央アジアの平原を思わせる悠久の響きも感じさせ、不思議な情感をたたえています。
平安末期といえば、ちょうど平清盛が中国は宋との交易を行っていたころ、おそらく異国の珍しい文化が怒涛のように流れ込んできていた時代なのではないかと思います。ですから作曲者の桃山さんがこれらはやりうたの背後にシルクロード文化につながるカラフルでエキゾチックな世界を感じ、そしてそれを音楽で表現したのはまさに素晴らしいセンス。ちょうど日本人が舶来ものの音楽に熱狂するルーツがこんなところにもあるなんていうのもなかなか理にかなっていて興味深いです。ちょうど60〜70年代の若者がビートルズやカーペンターズに熱狂していたのと同じように...
( 2005.04.25 藤井宏行 )