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また来ん春……    
 
 
    

詩: 中原中也 (Nakahara Chuuya,1907-1937) 日本
    在りし日の歌 (1938)  また来ん春……

曲: 友川かずき (Tomokawa Kazki ,1950-) 日本   歌詞言語: 日本語


また来ん春と人は云ふ
しかし私は辛いのだ
春が来たつて何になる
あの子が返つて来るぢやない

おもへば今年の五月には
おまへを抱いて動物園
象を見せても猫(にゃあ)といひ
鳥を見せても猫(にゃあ)だった

最後に見せた鹿だけは
角によつぽど惹かれてか
何とも云はず 眺めてた

ほんにおまへもあの時は
此の世の光のただ中に
立って眺めてゐたつけが……



中原中也の詩に付けた「うた」を取り上げるのであれば、この人は絶対に外せない、と思うのが友川かずきさんです。東北出身の彼は訥々とした訛り混じりの歌声で「フォークソング」を歌いますが、そのどれもが心にずしり、と響いてくるような曲ばかり。
自作の詩に付けた曲が多いのは他のフォーク歌手同様ですが、死刑囚・永山則夫の詩に付けた曲や、作家の立松和平のものに付けた曲もあったりして、テキストの選択にも独自のこだわりがあります。
そんな彼が歌を志すきっかけとなったのが、実は中原中也の詩「骨」を読んで衝撃を受けたことからなのだそうで、中原中也の詩に付けた自作の曲ばかり集めた「俺の裡(うち)で鳴りやまない詩」というアルバム(1978)もあります(入手は現在は難しいようですが...)。

今回紹介したのは、アルバム「空のさかな」に収録されている作品。そのショックから中也自身の死を早めた大きな原因となったと言う2歳の長男・文也の死を悼む詩につけたうたです。
これはここで私が駄文を連ねて紹介するのはあまりにおこがましく(というよりも無理)、とにかく聴いてください!としか言えません。幸い音楽をダウンロードできるサイトでこの歌は一部試聴もできますのでぜひ。私にも同じ年頃の子供がいますのでこの歌はとても衝撃的でした。中也が神経衰弱になってやがて死すことになるのも痛いほど良く分かります。まさに慟哭の詩とうたでした。
http://www.music.co.jp/index.html で検索してみてください

声の技巧がどうしたとか、作曲技術がどうしたとか小理屈をこねることだけが歌の魅力を味わうことではないはず。中也の詩を愛するすべての人で、もしこの友川さんをご存知ない方がおられればぜひ聴いてみて下さい。取り澄ましたクラシック音楽では聴くことができない中也の魅力が満ち溢れていると思います。

( 2005.04.11 藤井宏行 )


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