汚れつちまつた悲しみに…… |
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汚れつちまつた悲しみに 今日も小雪の降りかかる 汚れつちまつた悲しみに 今日も風さへ吹きすぎる 汚れつちまつた悲しみは たとへば狐の革裘(かはごろも) 汚れつちまつた悲しみは 小雪のかかつてちぢこまる 汚れつちまつた悲しみは なにのぞむなくねがふなく 汚れつちまつた悲しみは 倦怠(けだい)のうちに死を夢む 汚れつちまつた悲しみに いたいたしくも怖気づき 汚れつちまつた悲しみに なすところもなく日は暮れる…… |
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中也の詩の中では最も有名なもののひとつでしょう。付けられた曲もクラシック調あり、シャンソン風あり、フォークのスタイルあり、と何でもありの状況ですが(まだ聴いたことはないですが歌手・中村雅俊さんや長谷川きよしさんの自作自演もあるようです)、それはひとつにはこの詩が中也の詩にしては珍しくメロディが付けやすいものである、ということもあるかも知れません。
クラシック系の中では、中也が非常に影響を受けたといわれるフランス象徴派のヴェルレーヌを思わせるフランス歌曲風の作品がやはり私には面白いです。この系統で、石渡日出夫がこの詩に曲を付けているシャンソネット風の歌曲は石渡氏の代表作でもありますがやはり印象的な出来映えではないでしょうか。
中原中也記念館で発売されている「復活・スルヤ演奏会97」のCDではテノールの藤川泰彰氏のちょっとバタ臭い歌声で収録されていますが、これがまた実に味があって良いです。上質なシャンソンのような味がともかく面白い。
この石渡氏も先年亡くなられてからは次第に忘れられる流れにあるのかも知れませんが、この代表作だけでも歌い継がれて行ってほしいものです。いくつか他の録音もあるようですが、なかなかメジャーに知られることも少なくなってしまっているようですし。
( 2005.04.11 藤井宏行 )