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春の踊り    
 
 
    

詩: 竹久夢二 (Takehisa Yumeji,1884-1934) 日本
      

曲: 瀬戸口藤吉 (Setoguchi Toukichi,1868-1941) 日本   歌詞言語: 日本語


とんとるお月さん 春の月
たらんてらん たらんてらんたらん
白い兎が 出てはねる
たらんてらん たらんてらんたらん

白い指がよ キーのうえ
たらんてらん たらんてらんたらん
さっさおどろよ てあてあて
たらんてらん たらんてらんたらん



瀬戸口藤吉と言われても、もう若い人は「誰それ?」という作曲家になってしまっているかも知れません。ただ彼の作った作品で、恐らくいまだに日本人のほとんどが知っているであろう有名な曲が1曲あります。それは「軍艦マーチ(軍艦行進曲 明治33年頃)」。かつては日本海軍の武威高揚のメロディとして、また戦後はパチンコ屋の景気付けの音楽として広く使われ、もしかすると日本の軍歌の中では一番知られた曲かも。最近はパチンコ屋もお洒落になってきて、こんな音楽をかけることも少なくなったようですが...
私が子供のころは、この曲の替え歌で「戦艦大和が沈むとき...」というのがよく歌われていたのを覚えています。この替え歌の詳細な歌詞は私の品格に関わるのでここに書くのはやめますけれど←よく言うわ!

この音楽を書いた鹿児島出身の瀬戸口藤吉は、明治から大正のはじめにかけて軍楽隊に籍を置き作曲に演奏に活躍していました。日本における西洋音楽の普及には、もちろん唱歌による学校教育の果たした役割も大きいものがありますが、それと並んで重要だったのは軍隊における音楽。近代軍備制度のグローバルスタンダード(嫌な言葉だが)に合わせるために精一杯努力しなければならなかった分野だけに対応も早かったというのがその大きな理由でしょうか。この軍楽からも「美しき天然(田中穂積作曲)」のような曲が生まれ庶民にまで親しまれたりしていました。ところが1945年の敗戦後、なぜかこの方面の音楽は封印されてしまったかの如くになってしまい、この瀬戸口藤吉はじめ幾多の軍楽に関わった音楽関係者が今や忘れ去られようとしているのはとても残念なことです。

そんな彼は大正のはじめに軍隊を退役後、童謡やピアノ曲などを細々と書いていたのだそうですが、そんな中の一篇にとても可愛らしい春の歌がありました。しかも作詞が大正モダンの美人画家&小説家の竹久夢ニです。
昭和のはじめに書かれたその非常に意外な取り合わせの童謡作品がこの曲「春の踊り」とあともう一曲の「水車」です。
詞は野口雨情&中山晋平コンビの有名な童謡「兎のダンス」を思わせるような囃し言葉も軽やかなつくりですが、曲は作曲家の資質を表しているのかもっとゆったりと素朴なもので、のどかな春の宵をしみじみと表す佳曲です。

こういった歴史の狭間で不幸にして忘れ去られていく音楽を、自らは音楽家ではないにも関わらず発掘してきて、演奏家たちを集めてコンサートを開いたりCDを製作したり、という意欲的な活動をしている研究会があり、その中でこの瀬戸口藤吉さんの作品集が取り上げられていたのを最近ひょんなことから見つけ、その自主製作のCDを聴くことができました。
この優しい表情を見せる童謡は、その中で「水車」と一緒にウェケ暁子さんのソプラノ、細田真子さんのピアノで取り上げられています。ライブ録音ということでちょっとぎこちないところや音がずれたりするところもありますが、こんな貴重な作品が音になっただけでも有り難く思うべきでしょう。
他にも瀬戸口藤吉作品の本領である軍楽(ほとんどがマーチ)や、退役後に書いた校歌などの作品、さらにはピアノ独奏の作品など非常に多彩な作品群が聴ける面白いCDでした。
誰にでもお薦め、というわけには行きませんが、政治的・思想的な色眼鏡をかけずに、日本における西洋音楽普及の道筋を辿ってみようという人には非常に価値のある録音でしょう。この研究会では今後も忘れられた日本の音楽について様々な企画を考えておられるようなので私はとても期待しています。

( 2005.03.15 藤井宏行 )


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