TOPページへ  更新情報へ  作曲者一覧へ


Wie glänzt der helle Mond    
  Alte Weisen. Sechs Gedichte von Gottfried Keller
明るい月が、なんと冷たく遠くに輝いていることか  
     古き調べ:ゴットフリート・ケラーの6つの詩

詩: ケラー (Gottfried Keller,1819-1890) スイス
    Neuere Gedichte - Vermischte Gedichte - Alte Weisen 11 Wie glänzt der helle Mond

曲: ヴォルフ (Hugo Wolf,1860-1903) オーストリア   歌詞言語: ドイツ語


Wie glänzt der helle Mond so kalt und fern,
Doch ferner schimmert meiner Schönheit Stern!

Wohl rauschet weit von mir des Meeres Strand,
Doch weiterhin liegt meiner Jugend Land!

Ohn' Rad und Deichsel gibts ein Wägelein,
Drin fahr ich bald zum Paradies hinein,

Dort sitzt die Mutter Gottes auf dem Thron,
Auf ihren Knien schläft ihr sel'ger Sohn.

Dort sitzt Gott Vater,der den heil'gen Geist
Aus seiner Hand mit Himmelskörnern speis't.

In einem Silberschleier sitz' ich dann
Und schaue meine weißen Finger an.

Sankt Petrus aber gönnt sich keine Ruh,
Hockt vor der Tür und flickt die alten Schuh'.

明るい月が、なんと冷たく遠くに輝いていることか、
だが、さらに遠く、私の美しかったころの星がほのかにちらついている!

私から離れた海の浜辺がさざめいている、
だが、さらに彼方には私の青春の国があるのだ!

車輪も轅(ながえ)もない車がある、
これに乗って私はもうすぐ楽園に入る。

あちらでは聖母マリア様が玉座にお坐りになり、
その膝の上には祝福された御子息が眠っておられる。

あちらには父なる神が坐っておられ、聖霊たちに
天上の穀物を手渡しておられる。

そして私は、銀のヴェールにくるまって座り、
自分の白い指を見つめる。

だが、聖ペテロ様は休もうともなさらずに、
戸口にうずくまり、古い靴を繕っておられるのだ。


この詩はケラーの<古き調べ>では11番目に置かれている(<女性について>では「クレスツェンツ」(Creszenz)という女性名が付けられて、15番目に置かれている)。この詩は<古き調べ>と<女性について>ではかなりの相違がある。
死期の近づいている女性が、美しく若かった時代に思いを馳せながら、やがて向かう天国の様子を空想するという幻想的な内容である。
最終行の聖ペテロ(Sankt Petrus)は、漁師だったがキリストの一番弟子になり、キリストから天国の鍵を渡されたと伝えられている人物。天国の見張り番のようなイメージだろうか。
ヴォルフの曲は、月が「冷たく遠くに」輝いているという様を描くピアノ高音部での静かで冷たい音の連打で始まるが、これはバイロンによる歌曲「眠られぬ者の太陽」(Sonne der Schlummerlosen)(この曲での「太陽」も「月」を指す)でも使われる描写で、詩の展開に応じて、天国での幻想的な描写にも用いられている。最後から2番目の節(銀のヴェールをかぶって座り白い指を見つめる)でメロディーの動きが少なくなり、そのまま最終節の神秘的な表現とともに、この老女から生気が失せていくようだ。最終行のピアノの細かい音形はペテロが靴を修繕している描写と言われている。

シュヴァルツコプフ(S)ムーア(P):1961年1月:静謐で神秘的な雰囲気を漂わせ、天国からのお迎えを待つ女性の悟った心境を見事なまでに歌い尽くしている。
アーメリング(S)、ヤンセン(P):1981年6&8月:なめらかな弱声が美しく、抑制された表現でそれぞれの情景を彷彿とさせてくれる。
ヴァレンテ(S)レイム(P) :1985年7月:そこはかとない哀感が漂っていて良い。

( 2005.01.22 フランツ・ペーター )


TOPページへ  更新情報へ  作曲者一覧へ