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Tretet ein,hoher Krieger    
  Alte Weisen. Sechs Gedichte von Gottfried Keller
お入り、立派な兵隊さん  
     古き調べ:ゴットフリート・ケラーの6つの詩

詩: ケラー (Gottfried Keller,1819-1890) スイス
    Neuere Gedichte - Vermischte Gedichte - Alte Weisen 6 Tretet ein,hoher Krieger

曲: ヴォルフ (Hugo Wolf,1860-1903) オーストリア   歌詞言語: ドイツ語


Tretet ein,hoher Krieger,
Der sein Herz mir ergab!
Legt den purpurnen Mantel
Und die Goldsporen ab.

Spannt das Roß in den Pflug,
Meinem Vater zum Gruß!
Die Schabrack' mit dem Wappen
Gibt 'nen Teppich meinem Fuß.

Euer Schwertgriff muß lassen
Für mich Gold und Stein,
Und die blitzende Klinge
Wird ein Schüreisen sein.

Und die schneeweiße Feder
Auf dem blutroten Hut
Ist zu 'nem kühlenden Wedel
In der Sommerszeit gut.

Und der Marschalk muß lernen
Wie man Weizenbrot backt,
Wie man Wurst und Gefüllsel
Um die Weihnachtszeit hackt.

Nun befehlt eure Seele
Dem heiligen Christ!
Euer Leib ist verkauft,
Wo kein Erlösen mehr ist!

お入り、立派な兵隊さん、
あたしに心を捧げてくれた人!
深紅のマントを脱いで、
金の拍車をはずしなさい。

馬は鋤につなぐのよ、
あたしの父への挨拶の品にするから!
紋付の鞍敷きは
あたしの足の敷き物にちょうだい。

刀の柄(つか)は
あたしのために金や宝石を付けたままにしておいて。
それから、まぶしい刀身は
火かき棒にするわ。

そして、雪のように真っ白な羽飾りは、
血のように真っ赤な帽子に差してあったけれど、
涼む時の扇子になって
夏にちょうどいいわ。

それから、元帥さんには覚えてもらうわよ、
白いパンをどうやって焼くのかから、
ソーセージや詰め物を
クリスマス用にどう切るのかまでね。

今こそ、あなたの魂を
聖キリスト様に委ねてしまいなさい!
あなたの身体は売られたの、
もう解かれることはないのよ!


ヴォルフは、1889年のケラー70歳祝いのために彼の詩による歌曲集を考えていたが、結局予定は1年遅れ、「スペイン歌曲集」の最後の付曲(「禍いあれ、あたしの恋人を惑わした女に!」)から1ヶ月後(1890年5月25日)、ようやく最初の1曲「お入り、立派な兵隊さん」を作曲した。その1ヶ月後、友人メラニー・ケッヒェルトに宛てた手紙(6月24日付)に「ついに、六曲書き終わりました」という報告がある。「お入り、立派な兵隊さん」の後に多少煮詰まった時期があったようだが、結局1ヶ月で書き終えてしまったのである。しかし、肝心のケラーはヴォルフの作曲中の6月15日に、歌曲集を耳にすることなく亡くなってしまう。これらの6曲は必ずしも聴く機会の多い作品ではないが、紛れもないヴォルフの霊感の賜物である。
ちなみにブラームスは「ザーロメSalome,Op. 69-8」(「愛する人がアトリのように歌うというのなら」と同じ詩)と「テレーゼTherese,Op. 86-1」(「ねえ、青っぽい坊や」と同じ詩)に作曲しているが、ヴォルフは友人の前でそれらのブラームスの曲を演奏し、ブラームスのことを「バグ・パイプとアコーディオンの大家」と強烈に皮肉るのである。ちなみに、ブラームスとヴォルフでタイトルが違うのはケラーの詩集の異なる版を二人が用いたことを表しており、ブラームスの用いたと思われる版とヴォルフの用いた版とでは、タイトルだけでなく、詩句も変更されている。1851/1854年出版の「新詩集」(Neuere Gedichte)ではこの連作詩に<女性について:古き歌>(Von Weibern. Alte Lieder)というタイトルが付けられており、16篇の詩それぞれに女性名のタイトルが付けられている。ブラームスが使用したのはこの版と思われる。その後、1883/1884/1888年出版の「全詩集」(Gesammelte Gedichte)では<古き調べ>(Alte Weisen)というタイトルに変更され、詩の数も12篇に縮小している。こちらは各詩のタイトルから女性名が消え、詩の第1行がそのままタイトルになっている。ちなみにヴォルフの作曲した6篇の詩は、ケラーの<古き調べ>の順番では6、5、3、8、9、11番目に置かれている。

第1曲の詩「お入り、立派な兵隊さん」はケラーの<古き調べ>では6番目に置かれている(<女性について>では「ヘレーネ」(Helene)という女性名が付けられて、8番目に置かれている)。この<古き調べ>の詩は<女性について>に掲載された詩より1節少ない(最終節に相当する内容が省かれた)。
気位の高い女性が自分に身も心も捧げた兵士に対して、持ち物をすべて没収させ、ついでに心も私によこしなさいという欲張りな内容である。
身ぐるみ剥がされて骨抜きにされた男を前にして、母性本能まるだしな女王様の満足げな顔が目に浮かぶようだ。
ヴォルフの曲は、軍隊行進曲のリズムにのせて、兵士よりもさらに凛々しい女性の見下ろすような口調を再現しており、その性格描写の見事さが際立っている。
(今回のコメントは、多くをエリック・ヴェルバ著の「フーゴー・ヴォルフ評伝」(佐藤牧夫・朝妻令子訳:音楽之友社:1979年)から参考にさせていただきました。)

シュヴァルツコプフElisabeth Schwarzkopf(S)、ムーアGerald Moore(P):EMI CLASSICS:TOCE-3027:1962年12月:強引な女性の言葉をあくの強い表現で強烈に印象づける。さすがにうまい。
アーメリングElly Ameling(S)、ヤンセンRudolf Jansen(P):GLOBE:GLO 6029:1981年6&8月:気位の高さよりは相手をからかって戯れている雰囲気が強い。言葉に一つ一つ敏感に反応して引き込まれる。ヤンセンは軍隊行進曲を堂々と弾き魅力的な演奏。
ヴァレンテBenita Valente(S)、レイムCynthia Raim(P):PANTHEON:D10311:1985年7月:まろやかでみずみずしい美声によって、甘えるような雰囲気を醸し出している。

( 2005.01.22 フランツ・ペーター )


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