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Gesang zu Zweien der Nacht   Op.62-3  
  Das Holdes Bescheiden
ある夜の二人の歌  
     歌曲集「善き慎み」

詩: メーリケ (Eduard Friedrich Mörike,1804-1875) ドイツ
    Gedichte  Gesang zu zweisen in der Nacht

曲: シェック (Othmar Schoeck,1886-1957) スイス   歌詞言語: ドイツ語


Sie:

Wie süß der Nachtwind nun die Wiese streift,
Und klingend jetzt den jungen Hain durchläuft!
Da noch der freche Tag verstummt,
Hört man der Erdenkräfte flüsterndes Gedränge,
Das aufwärts in die zärtlichen Gesänge
Der reingestimmten Lüfte summt.

Er:

Vernehm ich doch die wunderbarsten Stimmen,
Vom lauen Wind wollüstig hingeschleift,
Indes,mit ungewissem Licht gestreift,
Der Himmel selber scheinet hinzuschwimmen.

Sie:

Wie ein Gewebe zuckt die Luft manchmal,
Durchsichtiger und heller aufzuwehen;
Dazwischen hört man weiche Töne gehen
Von sel’en Feen,die im blauen Saal
Zum Sphärenklang,
Und fleißig mit Gesang,
Silberne Spindeln hin und wider drehen.

Er:

O holde Nacht,du gehst mit leisem Tritt
Auf schwarzem Samt,der nur am Tage grünet,
Und luftig schwirrender Musik bedienet
Sich nun dein Fuß zum leichten Schritt,
Womit du Stund’um Stunde missest,
Dich lieblich in dir selbst vergissest -
Du schwärmst,es schwärmt der Schöpfung Seele mit!

女:

草地を撫で若い木立を鳴らしてゆく
夜の風がなんと芳しいことでしょう!
無粋な昼が口をつぐんでいる間
大地の力はひしめき合って囁きかけ
そよ風は澄んだ響きで口ずさみ
優しい歌声の立ち昇るのが聞こえます

男:

官能を誘う暖かな風に引き出された
不思議な魅惑の声が聞こえてくる
そしてまた、おぼろげな光の縞をともない
空そのものが融け流れてゆくように見える

女:

澄んだ明るい大気がそよぎ
時折織物のようにひらめきます
その中に聞こえる柔らかな響きは
蒼い大広間にいる至福の精霊たちが
天体の音楽に合わせて
歌いながら熱心に
白銀の紡錘をくるくると回す音です

男:

おお優しい夜よ お前はかすかな足音とともに歩む
昼の間だけ緑なす黒いビロードの上を
そして大気の奏でる音楽に合わせ
軽やかに歩みながら
時々刻々を測り
おのれの魅惑に我を忘れる・・・
お前は酔い痴れ、創られし魂もまた酔い痴れる!


「夜の二重唱」と訳されることの多い詩ですが、実はこれは男女が歌い交わしているのではなく、少し離れた場所でそれぞれが独白している場面なのです。歌曲集『善き慎み』第二部の第二曲「夜に」のところでも書きましたが、この詩はそれと一緒にメーリケの長編小説『画家ノルテン』の劇中劇『オルプリートの最後の王』の第四景で使われているものです。
そこで「女」は妖精の女王テレイレ、「男」はオルプリートの王ウルモンで、二人の関係は意外にも、テレイレが一方的な愛情によりウルモンを妖術の虜にしているというものです。このあとには、芝生に身を横たえたテレイレがウルモンに熱い眼差しを送るというト書きがあります。
 しかしこの詩だけを自立した作品として読めば、二人とも夜の神秘をうたいながら、純粋に叙情的な「女」の台詞に対しやたらと官能性を臭わせる「男」が口説いているような感じですが、そういう解釈もまた決して誤りではないでしょう。
そういった背景はさておき、作品「夜に」となった魅惑的な部分を省いてまでまとめられたこの詩の、まさに「大地の力がひしめき合って囁く」かのようなイマジネーションの豊かさは、メーリケの傑作のひとつと言っていいと思います。国書刊行会の『ドイツロマン派詩集』に収められた川村二郎訳による数編のメーリケ詩にこの作品が含まれているのも肯けます。
 シェックの作曲はひそやかな夜の二重唱といった趣で、「夜に」ほど神秘的ではないもののこれまた繊細で魅力的な作品です。イエックリンの全集では男女で歌い分けていますが、女声のドウソンがいささか力不足なので、ボストリッジに未練は残るもののクラーヴェスのフィッシャー=ディースカウが一人で通して歌ったものの方が良いと思います。

( 2004.12.19 甲斐貴也 )


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