An die Geliebte |
愛する人に |
Wenn ich,von deinem Anschaun tief gestillt, Mich stumm an deinem heil’gen Wert vergnüge, Dann hör’ ich recht die leisen Atemzüge Des Engels,welcher sich in dir verhüllt. Und ein erstaunt,ein fragend Lächeln quillt Auf meinem Mund,ob mich kein Traum betrüge, Daß nun in dir,zu ewiger Genüge, Mein kühnster Wunsch,mein einz’ger,sich erfüllt? Von Tiefe dann zu Tiefen stürzt mein Sinn, Ich höre aus der Gottheit nächt’ger Ferne Die Quellen des Geschicks melodisch rauschen. Betäubt kehr ich den Blick nach oben hin, Zum Himmel auf - da lächeln alle Sterne; Ich kniee,ihrem Lichtgesang zu lauschen |
君を見つめて深く心安らぎ 言葉もなくその清らかな美質を愛でていると 君の中に隠れ棲む天使の 微かな息づかいが確かに聞こえてくる そして驚きと訝しげな微笑が 僕の口もとに浮かぶ これは夢ではないのか 今や君によって限りなく心満たされ 身の程を知らぬただひとつの願いが成就したとは 深く、より深く僕の思いは沈みゆき 神聖な夜の彼方から 運命の泉の心地よいせせらぎが聞こえてくる 陶然として眼差しを上げ 天を仰ぐと・・・満天の星が微笑んでいる 僕はひざまずき、その光の歌に聴き入る |
大正4年〔1915年〕に作曲されたドイツ語歌曲。ヴォルフの作曲で名高いメーリケの詩「恋人に」に山田耕筰の作曲があったとは驚きです。ヘフリガー盤(「日本の歌曲を歌う-2」東芝イースト・ワールドTOCE8300)のライナーノートによれば、山田はベルリン留学時代に恩師のピアニスト幸田延(1870-1946)からメーリケの詩集を贈られていたとのことです。
作品は同時代のリヒャルト・シュトラウスなどを思わせるロマンティックなもので、後半ではオペラティックな高音も用いられていますが、高齢のヘフリガーにはこのあたりやや辛いものがあります。初演は当時の夫人山田(永井)郁子女史によって行われたそうなので、女声でも聞いてみたいところです。日本のリート歌手にももっと取り上げられてしかるべき作品でしょう。
山田耕筰のドイツ語歌曲にはもう一曲テオドール・フォンターネの詩による「漁師の娘」(前出盤に収録)がありますが、合唱曲ではハイネやゲーテの詩などにかなり作曲しており、メーリケの「秋の宴」の抜粋を歌詞とする管弦楽伴奏合唱曲もあります。
( 2004.12.12 甲斐貴也 )