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Peregrina T (Mörike: Peregrina X)   Op.15-6  
  Sechs Lieder
ペレグリーナT  
     6つの歌曲

詩: メーリケ (Eduard Friedrich Mörike,1804-1875) ドイツ
    Gedichte  Peregrina (Aus: Maler Nolten) V

曲: シェック (Othmar Schoeck,1886-1957) スイス   歌詞言語: ドイツ語


Die Liebe,sagt man,steht am Pfahl gebunden,
Geht endlich arm,zerrüttet,unbeschuht;
Dies edle Haupt hat nicht mehr,wo es ruht,
Mit Tränen netzet sie der Füße Wunden.

Ach,Peregrinen hab’ ich so gefunden!
Schön war ihr Wahnsinn,ihrer Wange Glut,
Noch scherzend in der Frühlingsstürme Wut,
Und wilde Kränze in das Haar gewunden.

Wars möglich,solche Schönheit zu verlassen?
- So kehrt nur reizender das alte Glück!
O komm,in diese Arme dich zu fassen!

Doch weh! o weh! was soll mir dieser Blick?
Sie küßt mich zwischen Lieben noch und Hassen,
Sie kehrt sich ab,und kehrt mir nie zurück.
人は言う 愛は杭に繋がれ
ついに哀れにも錯乱し 裸足で歩いていると
その端麗な頭を休める所も最早なく
傷ついた足を涙で濡らしていると

ああ 私はそのままの姿のペレグリーナを見た!
狂気の彼女の美しさ その頬は紅らみ
荒れ狂う春の嵐に戯れて
髪には乱れた花輪が巻きついていた

何故出来たのか このような美を捨て去ることが
・・・かつての幸せがいっそうの魅惑とともに蘇る!
さあ来なさい、この腕に抱きしめよう!

だがどうしたことだ! ああ! 私に向けたその眼差しは?
彼女は変わらぬ愛と憎しみの間で私に口づけして
身を翻し もう二度と戻って来ない


5番目の「ペレグリーナ」につけられた曲ですが、シェックの「ペレグリーナ」詩への作曲としては最初のものにあたるので「ペレグリーナT」と名付けられています。シェックはペレグリーナの番号の混乱もヴォルフの顰に倣ったというわけでしょうか。
この詩では1行目の「愛」が、「恋人」でも「愛する人」でもなくただ「愛」であることが訳を難しくしています。もちろん”Die Liebe”には「恋人」の意もあるので、そう訳しても誤訳にはなりませんが、ここはあえて直訳にしてみました。
シェックの作曲は淡々と穏やかに感情を綴っていくもので、地味ながら声高に嘆くよりもよほど効果的ですが、それにしても保守的な作風で、16歳上のヴォルフの二編のペレグリーナより古めかしい感じさえあります。録音は非常に少なく、イエックリンの全集盤を未聴なので今のところメゾのダグマー・ペチコーヴァがアーウィン・ゲイジの伴奏で入れたCDだけしか耳にしていません。これにはシェックの作品17の方の「ペレグリーナ」も収められ、美しい声の堅実な歌唱で楽しませてくれます。名手ゲイジの伴奏も万全です。
なおこの詩にはヨゼフ・マルクスの作曲もありますが未聴です。

【ペレグリーナ詩群〜X】
 初稿では「そして又」、『画家ノルテン』では「絶望の愛」と題されていた詩です。
美しい狂気の女はシェイクスピアの『ハムレット』のオフェーリアを思わせますが、シェイクスピアは神学生時代のメーリケの愛読書であったそうです。メーリケの実体験の方のペレグリーナ、つまりマリア・マイヤーは実際には発狂してはいないのでこの結末は創作ですが、これもおそらく詩人の見た夢の情景ではないでしょうか。
プロローグである「T」以外で事実を述べていると思われるのは「V」だけです。罪を意識しながらも陶酔的な愛の夢であるU、断ち難い思いのもたらすW、悔恨の情のもたらす悪夢のX。そして狂気に陥り受難者となったペレグリーナは既に救われ、詩人がひとり救われない・・・と読みましたがいかがでしょうか。
ペレグリーナ詩群の改訂では最終的に描写される情景が夢であることが伏せられ、また明らかに夢とわかる描写が削られたことで、夢と現実の境界が定かでなくなっていますが、それが読み手の想像力を刺激する結果となり、Uの後半の素晴らしい加筆改訂も含めて作品を深化・進化させる素晴らしい推敲となっていると思います。(了)

( 2004.11.17 甲斐貴也 )


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