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PeregrinaU (Mörike: PeregrinaV)   Op.17-4  
  Acht Lieder
ペレグリーナU  
     8つの歌曲

詩: メーリケ (Eduard Friedrich Mörike,1804-1875) ドイツ
    Gedichte  Peregrina (Aus: Maler Nolten) III

曲: シェック (Othmar Schoeck,1886-1957) スイス   歌詞言語: ドイツ語


Ein Irrsal kam in die Mondscheingärten
Einer einst heiligen Liebe.
Schaudernd entdeckt ich verjährten Betrug.
Und mit weinendem Blick,doch grausam,
Hieß ich das schlanke,
Zauberhafte Mädchen
Ferne gehen von mir.
Ach,ihre hohe Stirn,
War gesenkt,denn sie liebte mich;
Aber sie zog mit Schweigen
Fort in die graue
Welt hinaus.

Krank seitdem,
Wund ist und wehe mein Herz.
Nimmer wird es genesen!

Als ginge,luftgesponnen,ein Zauberfaden
Von ihr zu mir,ein ängstig Band,
So zieht es,zieht mich schmachtend ihr nach!
Wie? wenn ich eines Tags auf meiner Schwelle
Sie sitzen fände,wie einst,im Morgen-Zwielicht,
Das Wanderbündel neben ihr,
Und ihr Auge,treuherzig zu mir aufschauend,
Sagte,da bin ich wieder
Hergekommen aus weiter Welt!

かつて神聖な愛だった
月の輝く園に迷いの翳りが差した
慄きながら 私は重ねられた偽りに気づいた
そして涙に濡れた目で しかし無慈悲に
私は命じた たおやかな
魅惑の娘に
私から遠く去れと
ああ 彼女の気高い額は
うなだれた 私を愛していたから
そして彼女は黙して引き下がり
去っていった
灰色の世界へと

それ以来私の心は病み
傷ついて痛む
癒える日が来ることはあるまい!

さながら大気の紡ぎ出す魔法の糸が
二人を不安の絆で結ぶように
私は彼女に引かれる 彼女に焦がれ引きつけられる!
・・・どうだろう もしある日 私の家の戸口に
彼女が座っていたら 昔のように朝の薄日の下で
旅の荷物の横にいたとしたら
そして邪気の無い目で私を見上げ
言ったとしたら;戻って来ました
遥か遠い世界から!

ヴォルフの「ペレグリーナU」は原詩では第四番に当たるものでしたが、ややこしいことにこのシェックの「ペレグリーナU」は三番目に当たる詩です。シェックはこの前の作品15の歌曲集で原詩の五番目に当たるものを「ペレグリーナT」として作曲しているので、それに続くペレグリーナ歌曲ということでしょう。
シェックの作曲はコラール風に荘重に陰鬱に始まり、次第に沈潜していきます。中間部で感情を露わにしたあと、後半部はまたコラール風に戻り動揺しながら沈んでいきます。演奏はヘフリガー(クラーヴェス)、フィッシャー=ディースカウ(DG)、ペチコヴァ(スプラフォン)の他、シェック自身の伴奏によるエリザベート・ゲリ(コントラルト)の録音(1942)があり、音は古いながら優れた歌曲伴奏者として知られたシェックの演奏と自作解釈を知ることが出来る貴重な資料となっています。イエックリンの全集CDの演奏は残念ながら未聴です。

【ペレグリーナ詩群〜V】

詩人がペレグリーナに別れを告げるという物語の転換点になる詩ですが、中間部の独立させられた3行こそは、5つのペレグリーナ詩の中心に置かれたこの詩のそのまた中心であり、「ペレグリーナ」詩群全体の核心なのではないでしょうか。この苦悩の3行を中心にしてシンメトリーが構成されているというわけです。
この詩は長編小説『画家ノルテン』の中でも使われているのですが、「別れ」と題されていたそれは詩集に収められたこの最終版とはかなりの異同があります。特にこのVは後半が全く異なる夢の情景になっており、中間部ではそれが夢であることが明記されています。そうなるとUやXで語られる現実離れした情景もまた夢であるとすぐわかりますが、これが変えられたことで、ペレグリーナ詩群全体での夢と現実の境界が曖昧になり、それがかえって想像力への刺激を高めていると思います。
また前半では初稿にあった「罪を背負ったうつくしい狂気」「あやし妖異の国のむすめ」といった、ペレグリーナへのネガティブな表現が削除されたことで、詩人が罪の女ペレグリーナの一方的被害者であるような言い訳めいた感じが薄められ、ともに罪を背負っているという自覚が出ているようにも思います。非常に効果的であり、しかも作品が精神的に深まった見事な推敲と思いました。ただ、旧稿の夢の情景はそのまま捨てるに惜しいのも事実ですが。
ヴォルフ:「ペレグリーナU」【ペレグリーナ詩群〜W】へ続く)

( 2004.12.01 甲斐貴也 )


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