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Get out and get under the moon    
 
月光値千金  
    

詩: トビアス (Charles Tobias,1898-1970) アメリカ  & ジェローム (William Jerome,1865-1932) アメリカ
      

曲: シェイ (Larry Shay,1897-1988) アメリカ   歌詞言語: 英語


詩:著作権のため掲載できません。ご了承ください
あなたがひとりっきりで、気分が乗らないどんな夜でも
帽子をかぶって、部屋を飛び出し、6月の月の下に出よう
明るい銀の光の下で、気分はすぐに晴れやかになるさ

(詩は大意です)

1930年代にジャズが大挙して日本に入ってきた時代、この曲を含めてアメリカ生まれの素敵なメロディが日本の歌手たちによって魅力的に歌われました。ニ村定一や天野喜久代、ディック・ミネに川畑文子etc...
「洒落男」や「私の青空」、「林檎の樹の下で」や「ダイナ」と、これら日本語でお洒落に歌われた当時のジャズソングはとても魅力的です。中山晋平の東京行進曲でも「ジャズで踊ってリキュルでふけて」と、あるいは古賀政男の東京ラプソディでは「ジャズの浅草行けば」と、昭和の初めのモボ&モガ(モダンボーイ&モダンガールの略だとか)の洋楽に対する白熱ぶりが偲ばれる詞が入っており、戦後のロカビリーやラップのブームのように洋物に熱狂する日本人のはしりとして興味が尽きません。クラシック界でも、カルロス・クライバーやスタニスラフ・ブーニンに対する熱狂なんかはこれと同類ですかね?

さて、当時様々な歌手によって歌われた中でもこの曲、原題の”Get out and get under the moon”を蘇東坡の漢詩「春宵値千金」にちなんで「月光値千金」という邦題にしているのはすばらしいセンス。当時は流行歌の詩を書くにも教養が溢れていたんですね。西条八十みたいな大学の先生が演歌の詞を書いていたくらいですから...(ちなみにこの「月光値千金」タイトルと日本語詞を付けたのは浅草オペラの重鎮のひとり伊庭孝だそうです)

軽やかに弾むメロディは、SPのくぐもったような重厚な音で聞くとなんとも言えないノスタルジー。川畑文子さんのようなアンニュイな歌い方で聴くのが最高です。また喜劇王エノケンこと榎本健一がこの歌で替え歌を作って、月夜の下での恋人のじゃれ合いをコミカルに表現していたのもなかなかオツでした。
最近の歌手でも、映画「上海バンスキング」での吉田日出子さんや、ジャパニーズカヴァーのスタンダードの得意な伊東ゆかりさんの歌など素敵でした(改めて見ると全然最近の歌手ではない...)

あと未聴なのですがぜひ聴いてみたいのが、かの美空ひばりさんがナット・キング・コールを追悼して歌った録音。これはけっこう凄そうです、迫力が。多くの人は彼女を演歌界の人と誤解しているふしが多くありますが、もともと彼女は笠置シズ子さんのカバーから入った人、このテの曲に対するセンスも十分ではなかったかと思います。

英語盤では、このナット・キング・コールや、あるいは「ケ・セ・ラ・セラ」でおなじみのドリス・デイなどが歌ったものありますが、いずれもしっとりとした歌い方でカヴァーしていて、私がこの曲に求める軽快さに欠けるのが残念。そのあたりはオリジナルを歌ったビング・クロスビーの、ガーシュウインゆかりのバンド、ポール・ホワイトマン楽団の弾けるような伴奏に乗った軽やかさが最高でしょうか(Naxosで復刻されているのが入手容易でしょう)。”Pick up your hat close up your flat”の語呂とリズムの良さなんかとっても痺れます。作曲者のラリー・シェイは“When you're smiling”(君微笑めば)が他に有名なヴォーカル曲としてありますね。

( 2004.11.21 藤井宏行 )


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