人買船 |
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人買船に 買はれて行つた 貧乏な村の 山ほととぎす 日和は 続け 港は 凪ぎろ 皆さん さよなと 泣き 泣き 言ふた |
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藍川由美さんの雨情の詩に付けた歌をまとめたCDの冒頭を飾り、またこのアルバムのタイトルにもなっている本居の鮮烈な歌です。雨情は20歳になったばかりのころは社会主義派の詩人だったのだそうで、のちに郷里に戻り、民謡詩人となってからもこんな感じの社会悪を告発する詩をさりげなく書いているのですね。1910年、幸徳秋水とともに大逆事件で逮捕され翌年に刑死した当時29歳の女性・管野スガが法廷で同志に向けて語った言葉が織り込んであるのだそうです。大正の世にも大凶作が続いて窮乏し娘を人買いに売らねばならなかった小作農が続出したという史実があるようで、ホトトギスにカムフラージュしているとはいえ、かなり生々しい内容なのですね。本居のメロディは淡々としてあまりそんな生々しさはないですが、それだけに心に染み入ってくるようです。
( 2017.01.10 藤井宏行 )