千曲川旅情の歌 |
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昨日またかくてありけり 今日もまたかくてありなむ この命なにをあくせく 明日をのみ思ひわづらふ いくたびか栄枯の夢の 消え残る谷に下りて 河波のいざよふ見れば 砂まじり水巻き帰る 鳴呼古城なにをか語り 岸の波なにをか答ふ 過し世を静かに思へ 百年もきのふのごとし 千曲川 柳霞みて 春浅く水流れたり ただひとり岩をめぐりて この岸に愁を繋ぐ |
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弘田の屈指の傑作「小諸なる古城のほとり」と同時期に書かれ、よくタイトルを取り違えられますが同じ藤村の別の詩につけた歌曲です。結構凝った作りで、暗から明に転調するところなど思わずハッとさせられるところもありますが、残念ながら「小諸なる」ほどの絶妙な魅力は得られておりません。どことなく詩とちぐはぐな感じがしてしまうのが残念な作品です。良い歌唱で聴ければ印象も違うのかも知れませんけれども。
( 2016.12.08 藤井宏行 )