Ye Lai Xiang |
夜来香(イエライシャン) |
詩:著作権のため掲載できません。ご了承ください
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そよぐ南風 歌う恋の鳥 月の光に夢見る 夜来香(イエライシャン) 花の香り こんな夜は素敵 鳥の声も好き 眠る花の中で 匂う夜来香(イエライシャン) くちづけてあげる 夜来香 夜の歌 夜来香 恋の夢 ああ歌ってよ 語ってよ (原詞のムードを最大限に尊重して、この曲で歌える詞を創作してみました。 お前翻訳したな!と判断される方がいたらごめんなさい。 連絡下さればすぐに削除します) |
1940年代の中国は上海。「上海バンスキング」という映画もありましたが、日本でいうと神戸や横浜のようなモダンな港町上海にはジャズやラテンの音楽があふれていたのでしょうか。(太平洋戦争の戦局が押し詰まる中、余裕をなくした日本軍や政府はそういった「敵性音楽」をどんどん歌えなくしていったのですが)
そんな中で生まれたのがこの名曲「夜来香(イエライシャン)」、中国のメロディでありながらラテン音楽のムードに満ち溢れています。こんな幸せに満ちた歌が、日中戦争の歴史に翻弄された李香蘭の代表曲であった、というのは大変皮肉なことです。彼女が死刑判決を許され、日本に逃げるように帰るときにラジオから流れたのがこの曲、というのもまた因縁深いものが...
帰国した山口淑子さん(李香蘭)がその数年後に吹き込んだ日本語の「夜来香」。日本でよく歌われる佐伯孝夫氏の詞「あわれ春風に...」は春のウグイスと共になくした恋を嘆く歌にしていますが、原詞をよくよくみるとこの歌って、むせ返るようなトロピカルの中、夜に甘い香りを漂わせる夜来香の花とともに楽しい南国の夜を満喫する、といった感じの歌なのです。なるほど、それでルンバのリズムで軽やかに歌われているわけだ、と私の長年の謎がようやく判明した次第。
戦争がいよいよひどくなっていく時代、人々はこの歌につかの間の平和なユートピアを感じ取っていたのかも知れません。ひたすら甘く、甘く、美しい桃源郷を。
そんなことを思うと、このよく知られた日本語詞と原曲の意図した情景とのミスマッチもあんまりなので、私なりに原詞から得たフィーリングで歌える詞に挑戦してみました。
とはいえ替え歌の詞をネットに載せただけでもお叱りがくる時代。どこまで許されるかは分かりません。
(というよりもこれがクラシック系歌曲として本編の方に載ることを許されるかどうか?歌謡曲では十分クラシックですが...)
私は残念ながら聴いたことはないのですが、1950年当時はこの佐伯孝夫詞・山口淑子(李香蘭)歌のルンバ版伴奏の他に、藤浦洸詞・胡美芳歌のマンボ版伴奏というのがあったそうなので、もしかするとこちらは私が書いたようなトロピカルテイストの詞が再現されていたのかも知れません。
(さすがに「ウーッ、マンボ」がバックの演奏で「胸痛く、歌かなしい」と歌う訳にもいかないでしょうから)
中国語で歌われるバージョンの名演では、初演者・李香蘭の歌(SP盤)のほかにはやはりテレサ・テンのものが挙げられるでしょうか。私はこのテレサ盤しか原語ではまだ聴いたことはないのですが、女声コーラスも交えながら軽やかに歌われるこの歌はまさにトロピカルムード満点。私の作った詞もこれを何度も聴きながら練ってみました。
クラシック系の歌手もいろんな人が取り上げているかと思いますが、オリジナルの山口淑子さんのムードをできるだけピアノ伴奏の歌曲スタイルで再現しようと試みている五郎部俊朗氏の「歌は美しかったV」、かたやラテンのテイストを強調した素敵な編曲の上で歌われるカウンターテナーの声が魅惑的な米良美一さんの「かれん」に収録されているものなどが私は気に入っています。
くしくも2つとも男性歌手ですが、どちらもこの歌に新しい魅力を吹き込んでくれていますので、ぜひお聴き頂ければ幸いです。
女声ではむしろ、個性派のポップス歌手がカヴァーしたものの方が面白く聴けます。
おおたか静流さんや遊佐未森さんなど。前者は独自の詞がこだわりを感じさせますし、シャーマン(巫女)を思わせるような独特の歌声が不思議な魅力です。
後者は実に楽しい、この可愛らしい歌声でここまで遊ぶか?という味が斬新です。
いずれもクラシックファンには抵抗があるかも知れませんけれども...
(2004.08.23)
作曲者については上海の大物作曲家としてしか分からなかったのですが、その大きな理由はこの人の名がいろいろと表記されており、検索するときにとても困るということが挙げられます。恐らく一番通りが良い名が「黎 錦光 Li Jinguang 」なのですが、ペンネームとして「金 玉谷」という名前を使っていたり黎錦元であったりしています。ただ黎錦元といっているサイトは日本語には多数ありましたが中国語サイトでは皆無に近かったのでもしかすると日本で伝わったときに誰かが間違えたのがそのまま広まっただけなのかも知れません。ヒットしないといえば”Lee Ching-Kwang” というのも日本語のサイトでしか出てこない作者名ですので、これもどこかで間違えられている可能性があります。
2004年の時はそこまで深く調べずに日本語のサイトの情報だけ引っ張ってきて記事を書きましたので結果的に誤りを増幅してしまうことに加担してしまっていたかも知れません。申し訳ありませんでした。
またその後、上で言及している藤浦洸詞・胡美芳歌のマンボ版を聴く機会もありました。これ服部良一の編曲なのですが相当強烈で一聴の価値はあります。残念ながら歌詞の方は佐伯孝夫の呪縛を受けてか少々煮え切らないものではありましたけれども。
( 2004.08.23 藤井宏行 )