あどけない話 |
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智恵子は東京に空が無いといふ、 ほんとの空が見たいといふ。 私は驚いて空を見る。 櫻若葉の間に在るのは、 切つても切れない むかしなじみのきれいな空だ。 どんよりけむる地平のぼかしは うすもも色の朝のしめりだ。 智恵子は遠くを見ながら言ふ。 阿多多羅山(あたたらやま)の山の上に 毎日出てゐる青い空が 智恵子のほんとの空だといふ。 あどけない空の話である。 |
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高村光太郎の「智恵子抄」の中でも最も有名な詩。壊れてしまった智恵子の繊細な感性を描き出しています。清水脩や別宮貞雄の歌曲集に収められた力作もありますが、それよりもずっとロマンティックなのがこの蒔田の作品。彼も「智恵子抄」による歌曲集を書いているようですが、私が聴けたのはこの曲のみです。
( 2016.10.22 藤井宏行 )