お百度詣 |
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ひとあし踏みて夫(つま)思ひ ふたあし国を思へども 三足ふたゝび夫おもふ 女心に咎ありや ああ咎ありや 朝日に匂ふ日の本の 国は世界に只一つ 妻と呼ばれて契りてし 人もこの世に只ひとり ああ只ひとり かくてみ国とわが夫と いづれ重しととはれなば ただ答へずに泣かんのみ お百度詣 咎ありや ああ咎ありや |
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夏目漱石とも親交のあった美学者大塚保治の妻である大塚楠緒子(なおこ・「くすおこ」 とも)が日露戦争真っただ中の1905年に発表した、出征した夫を思う詩です。彼女自身の夫がこの戦争に出たということはなかったようですが。同じ日露戦争に出征する弟の無事を祈る与謝野晶子の「君死にたもうことなかれ」 と並んで女性の書いた厭戦詩・反戦詩として一緒に取り上げられることが多い両作品ですので、吉田隆子が一緒に取り上げようと思ったのも無理ないところでしょう。同じように秘めた思いを熱く語る吉田調のメロディでとても見事に書かれているとは思うのですが、「君死にたもう」 ほどの強い印象は与えてくれませんでした。それだけあちらが吉田の渾身の作だということもあるのでしょうけれども。
( 2016.10.22 藤井宏行 )