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Wie lange schon war immer mein Verlangen    
  Italienisches Liederbuch
もうどれほどずっと待ち焦がれてきたことでしょう  
     イタリア歌曲集

詩: ハイゼ (Paul Heyse,1830-1914) ドイツ
    Italienisches Liederbuch-Rispetti 43 Wie lange schon war immer mein Verlangen 原詩:イタリア詞

曲: ヴォルフ (Hugo Wolf,1860-1903) オーストリア   歌詞言語: ドイツ語


Wie lange schon war immer mein Verlangen:
Ach,wäre doch ein Musikus mir gut!
Nun ließ der Herr mich meinen Wunsch erlangen
Und schickt mir einen,ganz wie Milch und Blut.
Da kommt er eben her mit sanfter Miene,
Und senkt den Kopf und spielt die Violine.

もうどれほどずっと待ち焦がれてきたことでしょう、
ああ、私のことが好きだという楽師さんでもあらわれないかしら!
すると神様はとうとう私のお願いをかなえてくださり、
健康的な方をよこしてくださることになったの。
ほら、優しい顔つきで彼がこちらへ向かってくるわ、
頭を下げて、これからヴァイオリンを弾いてくださるのね。


いわば白馬に乗った王子様を待ち焦がれる女性は、神様が遣わしたこのヴァイオリニストにどういう反応を示すのであろうか。詩は楽師が演奏を始めるところで終わっており、彼がどのような演奏を聴かせたのかの描写は無い。ヴォルフはこのヴァイオリニストが初心者のようなひどい演奏をするように作曲した。「実におどおどと、よろめいて」という指示が後奏のはじめにあり、手が滑ったぎこちなさを強調するかのようなアクセントが3箇所付けられ(川村英司編集の楽譜によれば、自筆楽譜ではさらに2箇所多く付けられているが、これは無い方がかえって効果的に思われる)、最後にはトリル記号の上に「ゆっくりしたトリル」という言葉が添えられ、指が早く動かない様を描写している。
ヴォルフは、このヴァイオリニストを茶化したかっただけなのだろうか。むしろ、このような演奏を聴かされても何とも思わず彼にメロメロな女性のあばたも笑くぼ的な様子を描きたかったのではないか。恋は盲目というメッセージか。

この曲は女声歌手のアンコールにしばしば登場するが、自らの演技力を披露しようというだけでなく、共同作業のパートナーに大きな拍手をプレゼントしようという歌手の感謝の気持ちも込められているのではないか。
というのもこの曲の聴かせどころはやはり、若葉マークのヴァイオリニストの迷演奏を模したピアノ後奏にあるからである。
ライヴ録音でこの曲を聴くと、最後の曲でない時でも必ずくすくす笑いのどよめきと大きな拍手が起こり、会場が暖かい雰囲気に包まれるのが感じられるのである。

最近、ゼーフリートとルートヴィヒのザルツブルク・ライヴの録音が発売されたが、両者でベテラン、ヴェルバが「よろめいた」迷演奏を聴かせてくれる。
ヤンセンはよろめき方が一層巧妙で、がくがくとしてぎこちない様が鮮明に描かれる。
ゲイジは間をたっぷりとっておずおずとした様を強調しており、最後のトリルはだんだん早くなり、やっと止まるかと思うとまた続いたりして、いい意味での悪ノリぶりが面白い。
ムーアは大きめの音量でがさつな感じを演出し(このヴァイオリニストは「健康的」だと歌われている点を思い出したい)、最後のトリルはゲイジ同様下手さ加減を大胆に表現している。
エンゲルやヴァイセンボルンはあまりテンポを揺らさず、アクセントや長めのトリルを強調するくらいにとどめており、節度を重んじた演奏だが、もう少し派目を外してほしかった。
歌い手では、引退コンサートで歌っていたクリスタ・ルートヴィヒが得意にしていたようで、オペラで鍛えた演技力で聴かせる。
ほかにはマティスの真摯な歌いぶりやロットのアンニュイな表情が特に印象的。

( 2003.10.13 フランツ・ペーター )


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