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Komm,o Tod,von Nacht umgeben    
  Spanisches Liederbuch(Weltliche Lieder)
世俗歌曲第24番 『来てくれ、おお死よ、夜にまぎれて』  
     スペイン歌曲集_世俗歌曲集

詩: ガイベル (Franz Emanuel August Geibel ,1815-1884) ドイツ
    Spanisches Liederbuch - 2. Weltliche Lieder(スペインの歌の本 2.世俗歌曲) 34 Komm,o Tod,von Nacht umgeben 原詩:エスクリーバ Comendador Escrive,

曲: ヴォルフ (Hugo Wolf,1860-1903) オーストリア   歌詞言語: ドイツ語


Komm,o Tod,von Nacht umgeben,
leise komm zu mir gegangen,
daß die Lust,dich zu umfangen,
nicht zurück mich ruf' ins Leben.

Komm,so wie der Blitz uns rühret,
den der Donner nicht verkündet,
bis er plötzlich sich entzündet
und den Schlag gedoppelt führet.

Also seist du mir gegeben,
plötzlich stillend mein Verlangen,
daß die Lust,dich zu umfangen,
nicht zurück mich ruf' ins Leben.

来てくれ、おお死よ、夜にまぎれて
ひそかにわたしの許に来てくれ
おまえを抱く悦びで
わたしにこの世を振り向かせないように

来てくれ、大地を打つ稲妻が
雷鳴の轟きの前触れも無く
突然に閃光を放って
落雷の驚きを二倍にもするように

おまえも不意に訪れて
わたしの熱望をかなえてくれ
おまえを抱く悦びで
わたしにこの世を振り向かせないように


この曲の喜多尾道冬氏の訳は、命が死におびえないように突然来てくれと、死への恐れを強調したものになっていて、いささか未練がましく情けない感じになっていますが、確かに「この世を振り向かせないように」というのはこの世への未練があることを示していますね。死を熱望しながら一方でまた恐れる二律背反が主題なのは間違いないでしょう。また、この「おまえを抱く悦び」は単に嬉しいではなくてセクシャルな悦楽を示唆しています。楽譜の曲順に従わず、独自の順列をしているベーア、オッター&パースンズによる新しい全集盤では、この曲は最後から二番目、つまり最後の『行って、愛する人、もう行って』の前におかれ、その前夜の愛のひと時という設定がされています。

録音は多くない曲で、二種の全集以外ではヴォルフ協会SPのヨハンセン、フィッシャー=ディースカウの旧録音、そして白井さんしかありません。掲示板でリューノスケさんが書いておられたドイツ語の名詞の性を考えると、『死”Tod”』は男性名詞なので、唯一女声で歌っている白井さんは正統的と言えるかもしれません。遅いテンポで深い情感に満ちた白井さんの歌唱は抜群と思います。またスペイン歌曲集からの数曲を収めたこのCDの冒頭にこの曲を置いた選曲も興味深いものがあります。他ではやはり御大フィッシャー=ディースカウ氏。
2003.2.8 甲斐貴也

後記 2003.4.13

エリック・ヴェルバのヴォルフ評伝に、この詩がセルバンテスの『ドン・キホーテ』に引用されているという記述があるので調べてみました。後篇の第38章、「悲嘆の老女」がドン・キホーテをからかう長広舌の中で、第1節のみが引用されています。

いつ来しとも、わかぬがごとく
ひそやかに、死よ、われに来たれかし。
さもなくば、死のうれたさに、
わが胸に、生きんとの、望み芽生えん。

(会田由訳・筑摩書房世界文学大系11巻187ページ)

そして訳注(同書)によればこの詩は「1511年エルナンド・カスティーリョが編んだ『大詩歌集』に収められた教団長エスクリバの4行詩。」とのことです。

( 2003.4.13 甲斐貴也 )


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