髪 マチネ・ポエティクによる4つの歌曲 |
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詩:著作権のため掲載できません。ご了承ください
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もう15年近く前に同じ「マチネ・ポエティクによる4つの歌曲」の「さくら横ちょう」を取り上げた時には、「フォーレの歌曲を思わせる」と書きましたが、それで行けばこの「髪」、明らかにドビュッシーの同名の歌曲(ビリティスの3つの歌より)を明らかに意識して曲は書かれているようです。あちらは恋人の男の子が艶めかしくささやきかけているちょっとエロティックな情景、それに対してこちらはひとり鏡台の前ででも梳いているところのモノローグでしょうか。どことなくナルシスティックな匂いを感じさせながら、陶酔感あふれる歌を紡ぎ出しています。惚れ惚れするようなソプラノの高音が伸びやかに響くところは本当にドビュッシーのパロディのよう、幻想的な美しさは日本歌曲の中でも際立っています。リリックなソプラノの大切なレパートリーということでいろんな人が歌っており、面白いところではオランダのリート歌手、エリー・アメリングのものまでありますが、先日亡くなった日本のソプラノ、中沢桂さんの1996年に録音したもの(FONTEC)を追悼の意味も込めて聴いてみたら痺れました。60歳を過ぎての録音だと思うのですが実に艶めかしく美しい。ため息が出てしまいました。
この曲の詩を書いた原條あき子(1913-2004)は、1942年に結成されたマチネ・ポエティークという日本の詩を西洋詩のスタイルで書こうという試みに参加しています。確かにこの詩も韻を踏んだ見事なソネットになっています(ネットで見られる引用がこの形を崩して紹介されているものばかりなのが残念。ぜひちゃんとした4+4+3+3行になっているものを探してみてください)
( 2016.01.15 藤井宏行 )