Aus Harzreise im Winter |
冬のハルツの旅より |
Ach,wer heilet die Schmerzen Des,dem Balsam zu Gift ward? Der sich Menschenhaß Aus der Fülle der Liebe trank? Erst verachtet,nun ein Verächter, Zehrt er heimlich auf Seinen eigenen Wert In ungenugender Selbstsucht. Ist auf deinem Psalter, Vater der Liebe,ein Ton Seinem Ohre vernehmlich, So erquicke sein Herz! Öffne den umwölkten Blick Über die tausend Quellen Neben dem Durstenden In der Wüste! |
ああ 誰がこの痛みを癒してくれるのか 薬が毒へと変わってしまった者の? 人間の憎しみを 愛の充溢からすら飲んでしまった者の? 初めは蔑まれ 今は人を蔑む者となって 彼は密かにすり減らしているのだ 自分自身の価値をも 満たされぬ自己愛のうちに もしも御身の竪琴に 愛の父よ 響きがあるのなら 彼の耳に届く 彼の心をよみがえらせ給え! 曇ったまなざしを見開かせ 幾千もの泉が 渇いた者のそばにあることを見せ給え この荒野のうちにも! |
ブラームスが書いた「アルト・ラプソディー」がゲーテの「冬のハルツの旅」から詩を取り出しているのは良く知られていますが、ゲーテ同時代の作曲家として、ゲーテに高く評価されていたライヒャルトが同じ「冬のハルツの旅」から、ブラームスと同じ部分を(ライヒャルトの方が1節だけ短いですが)取り出して歌曲にしているのはたいへん興味深いことです。しかもこの曲、タイトルを「ラプソディー」と呼ばれることもあり(ゲーテの原詩には私の見た限りこの言葉はありませんでした)、ブラームスがこの歌曲の存在を知っていてこれにインスパイアされて「アルト・ラプソディ」を書いたというのもあながちあり得ない話でもないように思えます。民謡調の素朴な音楽が自分の詩には合うと考えていたゲーテに高く評価されたライヒャルトのつけたメロディですからまあ曲想は推して知るべし、しかしながら暗く沈んだ前半部が、神への祈りとなる後半で美しく転調して敬虔な響きとなるところなどはなかなか美しいです。
この曲にはフィッシャー=ディースカウの録音もあります(Orfeo)。
( 2016.01.09 藤井宏行 )