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Abschied    
  Gedichte von Eduard Mörike für eine Singstimme und Klavier
お別れ  
     メーリケ歌曲集

詩: メーリケ (Eduard Friedrich Mörike,1804-1875) ドイツ
    Gedichte  Abschied

曲: ヴォルフ (Hugo Wolf,1860-1903) オーストリア   歌詞言語: ドイツ語


Unangeklopft ein Herr tritt Abends bei mir ein:
»Ich habe die Ehr,Ihr Rezensent zu sein.«
Sofort nimmt er das Licht in die Hand,
Besieht lang meinen Schatten an der Wand,
Rückt nah und fern: »Nun,lieber junger Mann,
Sehn Sie doch gefälligst mal Ihre Nas’ so von der Seite an!
Sie geben zu,daß das ein Auswuchs is.«
- Das? Alle Wetter - gewiß!
Ei Hasen! ich dachte nicht,
All mein Lebtage nicht,
Daß ich so eine Weltsnase führt’ im Gesicht!

Der Mann sprach noch Verschied nes hin und her,
Ich weiß,auf meine Ehre,nicht mehr;
Meinte vielleicht,ich sollt’ ihm beichten.
Zuletzt stand er auf,ich tat ihm leuchten.
Wie wir nun an der Treppe sind,
Da geb’ ich ihm,ganz frohgesinnt,
Einen kleinen Tritt
Nur so von hinten aufs Gesäße mit -
Alle Hagel! ward das ein Gerumpel,
Ein Gepurzel,ein Gehumpel!
Dergleichen hab’ ich nie gesehn,
All mein Lebtage nicht gesehn,
Einen Menschen so rasch die Trepp’ hinabgehn!

ある晩私の部屋にノックもなしに一人の紳士が入ってきた;
「私は貴殿の批評家たる栄誉を担う者である。」
すぐさま彼は明かりを手にし
壁に映った私の影法師を長いこと眺め
あっちこっち調べて言った:「さて親愛なる若者よ、
貴殿の鼻を横からとっくり御覧あれ!
それがいかに醜悪であるか認識されよう。」
・・・何だと? これはたまげた、本当だ!
おお気持ちが悪い、生まれてこの方というもの
思ったこともなかった
こんな世にも稀なる鼻が自分の顔についていようとは!!

その男はさらにあれこれと話したが
名誉にかけてそれ以上は覚えていない;
もしかすると彼は私に告解してほしかったのかもしれない。
ようやく彼が立ち上がったので、私は足元を照らしてやった。
そして階段のところまで来た時に
実に楽しい考えがひらめいて
ほんのちょっぴり蹴って差し上げた
彼のお尻を後ろから…
こりゃすごい! ガラガラ、ガッシャン
ドッシーン!
あんな眺めは見たことがない
生まれてこの方見たことがない
人間があんなに素早く階段を降りられるとは!

ヴォルフのメーリケ歌曲集の悼尾を飾る曲で、曲集中でも名高い諧謔詩です。まるでヴォルフ自身の手になるかのようなこの詩はメーリケの詩集でもその最後に置かれており、両者の気質に重なり合う部分があることを示しています。一方で、自身が批評家として活動し、ブラームスなどを口を極めて罵倒し続けたヴォルフは、この詩に自分のパロディも見ていたのでしょうか。長大な歌曲集の最後に置かれ、演奏会の間さあ貶してやろうと手ぐすねひいている評論家に一泡吹かせるといった趣向のこの作品、わたしにはまるでブラームスの部屋を訪ねたヴォルフの姿にも思えてしまうのです。ヴォルフがそこまで考えていたのかどうかはともかく、ワルツに乗って意気揚々と終わるこの作品がヴォルフの面目躍如であることに変わりはありません。
普通は「あばよ」「おさらば」などと訳される詩ですが、「悪態つき」(友人たちのつけたあだ名)のヴォルフよりは「心もて足るを知る」メーリケ寄りに、少し品良く訳してみました。
演奏はもちろん、この手の曲で右に出るもののないフィシャー=ディースカウ氏の名調子でどうぞ。
(2004.8.16 甲斐貴也)

( 2004.8.16 甲斐貴也 )


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