TOPページへ  更新情報へ  作曲者一覧へ


Die Geister am Mummelsee    
  Gedichte von Eduard Mörike für eine Singstimme und Klavier
ムンメル湖の精霊たち  
     メーリケ歌曲集

詩: メーリケ (Eduard Friedrich Mörike,1804-1875) ドイツ
    Gedichte  Die Geister am Mummelsee

曲: ヴォルフ (Hugo Wolf,1860-1903) オーストリア   歌詞言語: ドイツ語


Vom Berge was kommt dort um Mitternacht spät
Mit Fackeln so prächtig herunter?
Ob das wohl zum Tanze,zum Feste noch geht?
Mir klingen die Lieder so munter.
       O nein!
So sage,was mag es wohl sein?

Das,was du da siehest,ist Totengeleit,
Und was du da hörest,sind Klagen.
Dem König,dem Zauberer,gilt es zu Leid,
Sie bringen ihn wieder getragen.
       O weh!
So sind es die Geister vom See!

Sie schweben herunter in’s Mummelseetal -
Sie haben die See schon betreten -
Sie rühren und netzen den Fuß nicht einmal -
Sie schwirren in leisen Gebeten -
       O schau’
Am Sarge die glänzende Frau!

Jetzt öffnet der See das grünspiegelnde Tor;
Gieb acht,nun tauchen sie nieder!
Es schwankt eine lebende Treppe hervor,
Und drunten schon summen die Lieder.
       Hörst du?
Sie singen ihn unten zur Ruh.

Die Wasser,wie lieblich sie brennen und glühn!
Sie spielen in grünendem Feuer;
es geisten die Nebel am Ufer dahin,
zum Meere verzieht sich der Weiher
        Nur still!
Ob dort sich nichts rühren will?

Es zuckt in der Mitten - o Himmel! ach hilf!
Nun kommen sie wieder,sie kommen!
Es orgelt im Rohr und es klirret im Schilf;
Nur hurtig,die Flucht nur genommen!
        Davon!
Sie wittern,sie haschen mich schon!

この真夜中遅くに輝く松明を灯し
山から何かが下りてくる
踊りに行くのかしら、お祭りに行くのかしら
とても楽しそうに歌っているわね
       あっ、違うよ!
言ってよ、ならあれは何?

ほら、あれはお葬式の行列よ
聞こえているのはお弔いの歌だわ
魔法使いの王様が亡くなって悲しんでるのよ
みんなは王様のお棺をかついで帰ってゆく
       まあ、かわいそう!
そうだ、あれは湖の精霊たちよ!

みんなはムンメル湖の谷を滑り降りた・・・
もう湖に入ったわ・・・
水をかきわけもしなければ足を濡らしもしない・・・
静かにお祈りを唱えながら・・・
       あっ、見て
棺の側にすごく綺麗な女の人がいる!

湖が緑色に映える入り口を開いた
良く見てごらん、みんな下の方に消えて行く!
生き物のように揺らぐ階段が見える
そして・・・もう水底で歌を口ずさんでいる
       聞こえる?
みんな安らかな眠りのために歌っているのよ

なんてきれいに波が燃え輝くことかしら!
緑色の炎がゆらめいているみたい
霧が亡霊のように岸辺に向かって流れ
小さな湖が海に変わったみたいね・・・
       静かに!
もしかしてあそこで何か動かなかった?

湖の真ん中がぴくりと動いた・・・ああ大変! 助けて!
みんなが戻ってきた、こっちにやって来る!
蒲の茂みが大きな音をたて、葦がきしむ
さあ早く、ここを逃げ出すのよ!
       大急ぎで!
見つかった、もう捕まっちゃう!

小説「画家ノルテン」の劇中劇である幻燈劇「オルプリートの最後の王」の第九景冒頭で、月明りの夜に王の葬列の幻を眺める幼い妖精の対話です。横恋慕した妖精の女王テライレの魔法で不死となり千年間生きながらえる王コルメルの前に現れる幻の葬列。はるか昔に亡くなった美しい妃アルミッサと臣下たちの葬列が自分の空の棺を湖に沈めます。アルミッサを思い悲しみに沈む王ですが、これは願っていた死が間もなく訪れる予兆ではないかと思い直します。この後の妖精の子供たちの命運ですが、ト書きに「子どもたちは逃げ去る」と書かれており無事のようです。

架空の島オルプリートにあることになっているムンメル湖という湖はメーリケの住んだシュヴァーベンに実在しており、この詩の描写の通り谷に囲まれた小さな湖です。ここは観光地となっておりネット上で画像も見ることが出来ます。

第2節で王のことを魔法使いと言っているのは、子供らしい勝手な決めつけでしょう。3節目の「女の人」”Frau”はもちろん妃のアルミッサなのですが、第3者の子供たちにそれがわかるはずもないと思い、既訳に多い「奥様」ではなく単に「女の人」にしてみました。5節目で「波が燃え輝く」という表現は変に思い、当初「きらめき輝く」などとしてみたのですが、これこそ詩的発想ではないかという友人の指摘を受け入れて原文を生かすことにしました。

一番悩んだの最終節の蒲”Rohr”と葦”Schilf”です。既訳では「葦」と「ヨシ」が当てられていますが、これは同一の植物の別名です。それはおかしくないかと思い調べたのですが、辞書では確かに”Rohr”も”Schilf”も「葦」「ヨシ」とされています。しかし”Rohr”は「管・筒」の意もあり、蒲や菅(スゲ)の訳語でもあります。つまり”Rohr”は葦や蒲、菅などの茎が筒状になった水生植物の総称でしょう。正確に葦を特定する独語は”Schilfrohr”らしいのですが、”Schilf”はその略ではないかと考えました。そこで蒲と菅では蒲の方が親しみやすいと思い蒲をを採用しました。

さてすっかり話が横道にそれてしまいました。ヴォルフの作曲は重々しい葬送行進曲風にはじまり、続く可愛らしい幼い妖精たちの対話が対比される楽しいものです。フィッシャー=ディースカウの芝居上手な名演もありますが、ソプラノのルート・ツィーザクが幼い妖精たちを可愛く歌って上出来です。

( 2003.11.4 甲斐貴也 )


TOPページへ  更新情報へ  作曲者一覧へ