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Der Feuerreiter    
  Gedichte von Eduard Mörike für eine Singstimme und Klavier
炎の騎士  
     メーリケ歌曲集

詩: メーリケ (Eduard Friedrich Mörike,1804-1875) ドイツ
    Gedichte  Der Feuerreiter

曲: ヴォルフ (Hugo Wolf,1860-1903) オーストリア   歌詞言語: ドイツ語


Sehet ihr am Fensterlein
Dort die rote Mütze wieder?
Nicht geheuer muß es sein,
Denn er geht schon auf und nieder.
Und auf einmal welch Gewühle
Bei der Brücke,nach dem Feld!
Horch! das Feuerglöcklein gellt:
 Hinterm Berg,
 Hinterm Berg
Brennt es in der Mühle!

Schaut! da sprengt er wütend schier
Durch das Tor,der Feuerreiter,
Auf dem rippendürren Tier,
Als auf einer Feuerleiter!
Querfeldein,Durch Qualm und Schwüle,
Rennt er schon,und ist am Ort!
Drüben schallt es fort und fort:
 Hinterm Berg,
 Hinterm Berg,
Brennt es in der Mühle!

Der so oft den roten Hahn
Meilenweit von fern gerochen,
Mit des heil’gen Kreuzes Span
Freventlich die Glut besprochen -
Weh! dir grinst vom Dachgestühle
Dort der Feind im Höllenschein.
Gnade Gott der Seele dein!
 Hinterm Berg,
 Hinterm Berg,
Ras’t er in der Mühle!

Keine Stunde hielt es an,
Bis die Mühle borst in Trümmer;
Doch den kecken Reitersmann
Sah man von der Stunde nimmer.
Volk und Wagen im Gewühle
Kehren heim von all dem Graus;
Auch das Glöcklein klinget aus:
 Hinterm Berg,
 Hinterm Berg,
Brennt’s! -

Nach der Zeit ein Müller fand
Ein Gerippe samt der Mützen
Aufrecht an der Kellerwand
Auf der beinern Mähre sitzen:
Feuerreiter,wie so kühle
Reitest du in deinem Grab!
Husch! da fällt’s in Asche ab.
 Ruhe wohl,
 Ruhe wohl
Drunten in der Mühle!

あの小さい窓にまた
赤い帽子が見えるって?
良くないことが起きるぞ
あいつが部屋を行ったり来たりしているから
するとたちまち大騒ぎ
橋の近く、野原の方だ
そら! 半鐘が鳴り出した
    山の向こうで
    山の向こうで
粉ひき小屋が燃えている!

見ろ! あいつが猛然と飛び出した
炎の騎士は門を駆け抜け
まるで火事場梯子のように
あばらの浮き出た馬に跨り
野原を横切った! 煙と熱気をかいくぐり
もう火事場に駆けつけた!
半鐘が鳴り続く
    山の向こうで
    山の向こうで
粉ひき小屋が燃えている!

おまえはもう何度も赤い雄鶏を
はるか遠くから嗅ぎつけ
聖なる十字架のかけらを持ち
神も恐れず炎を折伏してきたが
なんということ! 地獄の光を放つ敵が
屋根の梁の間であざ笑っている
おまえの魂に神のご加護を!
    山の向こうで
    山の向こうで
粉ひき小屋であいつが闘っている!

一時も持ちこたえずに
粉ひき小屋は瓦礫と崩れた
だがあの向こう見ずな騎手を
それから見た者はいなかった
混みあう人々や馬車は
驚きも鎮まり家へと向かう
そして鐘も鳴り止んだ
    山の向こうで
    山の向こうで
燃えている!・・・

しばらく後に粉屋が見つけた
帽子を被った骸骨が
痩せ馬の骨に跨り
地下蔵の壁にもたれて立っているのを
炎の騎士よ、おまえはなんと落ち着き払って
墓場へ馬を駆ることか!
にわかにそれは灰に崩れた
    安らかに眠れ
    安らかに眠れ
粉ひき小屋の下で!

※)赤い雄鶏=火事の象徴


メーリケ歌曲集の中でもその目覚しい演奏効果により知られる曲。これも長編小説『画家ノルテン』の中で使われている詩で、主人公と友人たちが奇妙な人物の招待により夜中に訪れた教会の塔の部屋に居合わせた楽士のひとりが歌います。第三節は後に詩集に収められてから追加されたものです。

メーリケの故郷シュヴァーベン地方の伝承に火事を予知する騎士の物語があるそうですが、この詩の騎士は現場に駆けつけて炎と戦い死んでしまいます。しかしその遺体は馬に跨ったままの姿で、死力を尽くしたことを誇るかのようです。一説によると第一連の、部屋の中で帽子を被って行き来する男とは、メーリケが尊敬した大詩人ヘルダーリンが精神を患ってからの様子をヒントにしているそうです(ヘルダーリンが被っていたのは白い帽子)。確かにこの物語は、普通の人間には見えない物が見える能力に恵まれたことが自らの身を滅ぼしてくという天才の宿命を物語るようで、メーリケの短編小説『旅の日のモーツァルト』に通じるものがあると思います。 霊感に襲われてドンキホーテのようにがむしゃらに突き進む炎の騎士の姿は、むしろ作曲者フーゴー・ヴォルフを思わせるところもありますね。

芝居上手なフィッシャー=ディースカウは何度も録音しておりいずれも優れています。リートとしてはやりすぎかもしれませんが、リヒテルとのライブ録音はピアノの威力が凄いです。しかし鋭すぎて昔話風の素朴さからは遠いので、プライのおおらかさも捨てがたいです。女声ではファスベンダーがティボーデのピアノを得て果敢に歌っています。なおヴォルフは後にこの 曲をオーケストラ伴奏付き合唱曲に編曲しています。オーケストラはともかく合唱には非常に合っており、独唱より効果的と思えるほどです。

( 2003.10.7  甲斐貴也 )


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