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速吸と菟狭    
  海道東征
 
    

詩: 北原白秋 (Kitahara Hakusyuu,1885-1942) 日本
    新頌 (1941)  速吸と菟狭

曲: 信時潔 (Nobutoki Kiyoshi,1887-1965) 日本   歌詞言語: 日本語


その一

海原(うなばら)青海原(あをうなばら)
海道(うみつぢ)(みちびき)や、()槁根津日子(さをねつひこ)
速吸(はやすひ)水門(みと)になも、その珍彦(うづひこ)


童ぶり

(かめ)(かふ)()られて、
(しほ)()()られて、
かぶりかうぶり(あま)()
(さを)やらな、()いまゐれ、
(なみ)かぶりかぶるに、
(ふね)へと(うつ)らせ、
()をのれ()()や、
(ふね)へまゐ()づるは
(やつこ)ぞとそれまをす。
(くに)(かみ)()ひこごむ。
(しほ)みづく(くに)(かみ)
海豚(いるか)()()よな、
遠眼(とほめ)鋭眼(とめ)(さかし)な、
()ぶり()ぶりおもしろ。


その二

菟狭(うさ)はよ、さす(しほ)水上(みなかみ)
豊国(とよくに)行宮(かりみや)
ああはれ、足一騰宮(あしひとつあがりのみや)とよ、行宮(かりみや)

足一騰宮(あしひとつあがりのみや)は、行宮(かりみや)
(あを)岩根(いはね)一柱(ひとはしら)()す。

足一騰宮(あしひとつあがりのみや)参出(まゐづ)ると、
(おほ)わたの(かめ)(かは)のぼり()る。

足一騰宮(あしひとつあがりのみや)大御饗(おほみあへ)
()(たてまつ)るはるか雲居(くもゐ)に。

足一騰宮(あしひとつあがりのみや)やは菟狭津彦(うさつひこ)
(あした)さもらふ、(ゆふ)べさもらふ。

足一騰宮(あしひとつあがりのみや)(たぎ)()や、
足一(あしひと)(あが)り、(くも)()()ます。

 ええしや、をしや、
 ええしや、をしや。



速吸(速吸瀬戸:はやすいのせと)は今の豊予海峡、潮の流れが速く航海の難所です。ここで槁根津日子(珍彦)という漁師が現れて水先案内をしたことが「その一」に語られています。ここは叙述描写ですのでバリトンのソロで重々しく。しかしその案内の様子は次の児童合唱で調子良く、ここは日本古来のわらべ歌のメロディでとても懐かしい響き。「海の子」や「国つ神」とあるのはこの槁根津日子で、その奮闘ぶりを微笑ましく描いています。
引き続き「その二」では豊後の国宇佐に上陸し、その地の土豪(国つ神)菟狭津彦の歓待を受けたのだそうで、その様子が描写されています。足一騰宮というのがその歓待の大宴会をしたところなのだそうで、宇佐にはその遺跡があります。ここはテナーとソプラノのソロで始まりますが、すぐに日本情緒纏綿たる合唱で盛り上がります。
さきほどのわらべ歌同様、のちの天皇の行幸を描くにはちょっと俗っぽ過ぎる感もありますが、逆にこれだからこその親しみやすさもあります。

( 2015.11.25 藤井宏行 )


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