速吸と菟狭 海道東征 |
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その一 海原や青海原、 海道の導や、早や槁根津日子、 速吸の水門になも、その珍彦。 童ぶり 亀の甲に搖られて、 潮の瀬に搖られて、 かぶりかうぶり海の子、 棹やらな、附いまゐれ、 波かぶりかぶるに、 み船へと移らせ、 名をのれ早や早や、 み船へまゐ出づるは 臣ぞとそれまをす。 国つ神と這ひこごむ。 潮みづく国つ神、 海豚の眼見よな、 遠眼、鋭眼、慧な、 羽ぶり羽ぶりおもしろ。 その二 菟狭はよ、さす潮の水上、 豊国の行宮。 ああはれ、足一騰宮とよ、行宮。 足一騰宮は、行宮と 青の岩根に一柱坐す。 足一騰宮に参出ると、 大わたの亀や川のぼり来る。 足一騰宮の大御饗、 誰が献るはるか雲居に。 足一騰宮やは菟狭津彦、 朝さもらふ、夕べさもらふ。 足一騰宮は湍の上や、 足一つ騰り、雲の辺に坐ます。 ええしや、をしや、 ええしや、をしや。 |
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速吸(速吸瀬戸:はやすいのせと)は今の豊予海峡、潮の流れが速く航海の難所です。ここで槁根津日子(珍彦)という漁師が現れて水先案内をしたことが「その一」に語られています。ここは叙述描写ですのでバリトンのソロで重々しく。しかしその案内の様子は次の児童合唱で調子良く、ここは日本古来のわらべ歌のメロディでとても懐かしい響き。「海の子」や「国つ神」とあるのはこの槁根津日子で、その奮闘ぶりを微笑ましく描いています。
引き続き「その二」では豊後の国宇佐に上陸し、その地の土豪(国つ神)菟狭津彦の歓待を受けたのだそうで、その様子が描写されています。足一騰宮というのがその歓待の大宴会をしたところなのだそうで、宇佐にはその遺跡があります。ここはテナーとソプラノのソロで始まりますが、すぐに日本情緒纏綿たる合唱で盛り上がります。
さきほどのわらべ歌同様、のちの天皇の行幸を描くにはちょっと俗っぽ過ぎる感もありますが、逆にこれだからこその親しみやすさもあります。
( 2015.11.25 藤井宏行 )