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Dank'es,o Seele!    
  Gedichte von Eduard Mörike für eine Singstimme und Klavier
それを思え、おお魂よ!  
     メーリケ歌曲集

詩: メーリケ (Eduard Friedrich Mörike,1804-1875) ドイツ
    Gedichte  Denk es,o Seele!

曲: ヴォルフ (Hugo Wolf,1860-1903) オーストリア   歌詞言語: ドイツ語


Ein Tännlein grünet,wo,
Wer weiß,im Walde,
Ein Rosenstrauch,wer sagt,
In welchem Garten?
Sie sind erlesen schon,
Denk' es,o Seele,
Auf deinem Grab zu wurzeln
Und zu wachsen.

Zwei schwarze Rößlein weiden
Auf der Wiese,
Sie kehren heim zur Stadt
In muntern Sprüngen.
Sie werden schrittweis gehn
Mit deiner Leiche;
Vielleicht,vielleicht noch eh'
An ihren Hufen
Das Eisen los wird,
Das ich blitzen sehe

人知れず森のどこかで芽生える
一本の樅の木
誰が気にとめることもなく
どこかの庭に咲く一株の薔薇
それらは既に選ばれている
それを思え、おお魂よ
それらはお前の墓に植えられ
生い茂るのだ

二頭の黒い仔馬がいつものように
牧場で草を食べている
そして元気に跳ね飛びながら
町の厩へと帰っていく
彼らはゆっくり歩むことになる
お前の遺骸を牽いて
おそらくは、おそらくは
仔馬たちの蹄に
輝いて見える蹄鉄が
落ちてしまう前に!

メーリケの短編小説『旅の日のモーツァルト』に使われている詩です。メーリケの創作による、モーツァルトがプラハへ旅する途上でのエピソードを描いたこの一編は、メーリケのモーツァルト観・音楽観を垣間見る事の出来る作品です。2002年現在岩波文庫から出ていた訳書は品切れ重版未定のようですが、機会があればぜひご一読をお奨めします。その時のために、この詩が作中でどのように扱われているかは明かさないで置きましょう・・・。

(甲斐貴也)2002.6.6
 改訂にあたっての追記

この詩はまずタイトルが非常に難しいです。わたしが知っているだけで「そを思えかし、おお魂よ!」(宮下健三訳)、「そを思え おお魂よ!」(森孝明訳)、「考えてもみよ、ああ心よ」(喜多尾道冬訳)、「思いみよ、おお心よ」(西野茂雄訳)などがありますが、考えた末いかにも詩的ではありませんが直訳にしました。これはもちろん「死を意識せよ」ということです。カトリックの世界でメメント・モリMemento Mori (「死を思え」「死を忘れるな」)というラテン語の有名な格言がありますが、それと同意と言って差しつかえないでしょう。簡単に言うと、人生が有限であることを常に意識することによって生きることの意味、今という時の大切さを知ることができるということでしょうか。

死を忌まわしいものとして日常から遠ざける我が国の感覚からはやや違和感を覚えそうですね。わたしも初めてこの詩に出会った頃、なんと不吉な詩だろうと嫌悪感に近いものすら感じたのですが、だんだん真意がわかるようになりました。「メーリケ名詩集」の著者宮下健三氏はこの詩を「ここでは死は畏怖し避けられるべき対象ではない。最後に残る印象はしょせん人間の避けられぬ墓と柩車の死の定めにも拘らず大胆な生の肯定であり・・・」とし、「全体的な生の讃歌であるモーツァルトと同じ境地に達している」と評しています。

この地上の美しさを象徴する青々と繁る樅(モミ)の木や薔薇の花、生きる喜びを象徴する楽しそうな子馬たち、それらの象徴に何か出典があるのかどうかは浅学のためわかりません。

なおこの詩は「旅の日のモーツァルト」の中では無題で、後に詩集に収められた時に現在のタイトルがつけられたようです。タイトルには感嘆符が付いていますが、本文中の同じ言葉にはついていません。一部の出版物ではそこにも感嘆符がつけられているものがありますが、原語の詩集やヴォルフの楽譜を確認したところ感嘆符はありませんでした。

最終行の蹄鉄が落ちるという表現はあまり聞きなれませんが、我が国にも「落鉄(らくてつ)」という言葉があり、古くなった蹄鉄が緩んで外れてしまうことを指します。

演奏はまたまた白井さんになってしまいますが、厳粛で品格の高い歌唱を聴かせてくれます。
2003.9.16改訂

( 2003.9.16 甲斐貴也 )


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