Peregrina I Gedichte von Eduard Mörike für eine Singstimme und Klavier |
ペレグリーナ I メーリケ歌曲集 |
Der Spiegel dieser treuen,braunen Augen Ist wie von innerm Gold ein Wiederschein; Tief aus dem Busen scheint ers anzusaugen, Dort mag solch Gold in heil'gem Gram gedeihn. In diese Nacht des Blickes mich zu tauchen, Unwissend Kind,du selber lädst mich ein - Willst,ich soll kecklich mich und dich entzünden, Reichst lächelnd mir den Tod im Kelch der Sünden! |
その一途な褐色の目は 内に秘めた黄金の光を映す水面のようだ 胸の奥底から吸いあげられたかのようなそれは 聖なる悲嘆の育む黄金なのかも知れぬ この眼差しの闇に浸れと 無邪気な子よ、お前は自ら私を誘う・・・ 恐れ知らずにも私とお前に火をつけよと促し 微笑みながら罪の杯に満たした死を差し出すのだ! |
メーリケの5篇からなる「ペレグリーナ詩群」の第1番となる詩。ヴォルフは第4番にも作曲しています。「水面」とした”Spiegel”は普通「鏡」と訳されていますが、「内に秘めた黄金の光」は何やらラインの黄金を連想させますし、「吸い上げる ”anzusaugen” 」の語も水に関連したものですから、鏡より水面の方がふさわしいように思いこうしてみました。水底に隠された黄金の光を映す水面のような瞳、なかなか魅力的と思うのですがいかがでしょうか。
ヴォルフの作曲は、罪と死の誘いの抗し難い魅力をさらに際立たせます。この詩にはメーリケの友人だった作曲家エルンスト・フリードリヒ・カウフマンも作曲していますが、およそヴォルフとは似ても似つかぬ古典的で素朴な作品です。しかし言葉のリズムを生かしていることには変わりなく、メーリケ自身の音楽観を窺がい知ることができます。
演奏はフィッシャー=ディースカウのムーア、バレンボイム伴奏の新旧二種。珍しいところで女声のファスベンダー(デッカ)も。
【ペレグリーナ詩群〜T】
19歳の多感な神学生であったメーリケは、マリア・マイアーという謎めいた女性との恋により精神的危機に陥りました。ついに断腸の思いで交際を絶つまでの経緯は、メーリケが当時の日記や手紙の類を完全に隠滅したため今日多くを知ることが出来ません。その「魂を深く傷つけた」愛の出会いと心の傷を作品に昇華したのが長編小説『画家ノルテン』であり、その中に挿入されたさらに象徴的な「ペレグリーナ」詩五篇、いわゆる「ペレグリーナ詩群」(宮下健三氏)です。
これらの詩はその体験直後に書かれた初稿、『画家ノルテン』に収められた稿、そして詩集に収められた最終稿でかなりの推敲や差し替えが行われており、詩人の心境の移ろいを垣間見るとともに、作品としての完成度が高められていく過程を知ることが出来ます。「ペレグリーナT」は初稿では「尼僧アグネス」と題された八行二連の詩でした(「ペレグリーナ」の名が確定したのは最終版)。削除された後半は、詩人の愛への憧れと幻滅を物語る夢の情景で、これが省かれた『画家ノルテン』版では「警告」と改題されて順序も2番目におかれ、詩集に収められた最終版ではタイトルが単に「T」となって位置も冒頭にもどされたのです。
(シェック作曲「ペレグリーナ」【ペレグリーナ詩群〜U】へ続く)
( 2003.10.13 甲斐貴也/2004.12.3改訂 )
( 2004.12.03 甲斐貴也 )