Er ist's Gedichte von Eduard Mörike für eine Singstimme und Klavier |
彼は来た メーリケ歌曲集 |
Frühling läßt sein blaues Band Wieder flattern durch die Lüfte; Süße,wohlbekannte Düfte Streifen ahnungsvoll das Land. Veilchen träumen schon, Wollen balde kommen. - Horch,von fern ein leiser Harfenton! Frühling,ja du bist's! Dich hab ich vernommen! |
春が青いリボンを 再び空にたなびかせると 甘美で懐かしい香りが 地に触れその胸ときめかす 菫はすでに夢見ている 間もなく花咲くことを ・・・聞いてごらん、遠くからかすかなハープの音が! 春、そうだおまえだ! おまえの訪れをわたしは聴いたのだ! |
この詩はシューマンの項で藤井さんが「今・・・」と題して訳されているのと同じものです。一般に「春だ」、「もう春だ」などの邦題で親しまれていますが、藤井さんが書かれている通り原題には「春」の語は使われていません。そっけない題ですが、詩人がわざわざ詩文に含まれない語を使ってつけたものですから、「春」の語をあえて使わないことを尊重したいとわたしも思います。代名詞のEr(英語のHe/It)を藤井さんはItとして訳していますが、わたしはひとひねりしてHeにしてみました。ドイツ語の文法上はたまたま「春」が男性名詞だから使われているだけのことかもしれませんが、最後の2行の春に対する呼びかけを、春を擬人化する表現と考えて人称代名詞としたわけです。
ヴォルフの作曲は非常に生き生きとした、春を迎える喜びが爆発するようなものです。好きな演奏はデビュー当時のボニーのみずみずしい歌声、隠れた実力派のツィーザク、ベテランのマティスと、どちらかというと女声向きの曲と思います。男声ではベーア。
( 2003.9.29 甲斐貴也 )