湧く涙 |
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あなあはれ 泣きぬれて 心うるほす 我(わが)なみだ 湧きくるなみだ 汝(なれ)こそ夏の噴井(ふきゐ)の 人しれず あふれあふれて 草をひたす そのごと我を涵(ひた)しけれ うれしきかな 故もなく げに然(さ)ることもなく 湧くなみだの うれしきかな |
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ベルリン留学から戻って、再び露風の詩に集中的に曲を付けたのが1919年です。この年にベルリン留学中に書いた露風の詩による歌曲9曲に1917年作曲の「唄」を加えた10曲が歌曲集「露風之巻」として出版され、それに引き続く歌曲集として5曲が新たに書かれたのでした。まだ北海道に赴任前の露風と耕筰が親しく交流していた頃だということで、その親交の所産だとも言われています。というのもほとんどの歌で詩は露風の書き下ろしであり、のちに露風が詩集に載せたものと細部が色々と食い違っているのだそうで、ある意味詩人と作曲家の共同制作というのも当たっているのかも知れません。詩と音楽の親密さがベルリン時代の曲とは全然違い、歌詞についたメロディに違和感を覚えることが全くないのです。
この歌曲も堂々たるメロディで貫録あふれます。音の跳躍が多く歌うのは難しいかも知れませんがうまく歌えると実に見事な曲と思えるに違いありません。
( 2015.09.21 藤井宏行 )