寺 |
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風なきに散る葉かな おほきみ寺の 昼は闌けたり 水烟 漾として目路に立つところ 現なく夢なき夢に 寂滅の境説き給ふ 如来 箔あせしまま 襖絵に 四時 花咲き 鳥歌ふ 真日は透らぬ書院のくままで 香流れ 庫裡の水屋 水がめに水湛ふ 蕗に似るかをりも何か 今めかし のつと 廊のはづれ 黒々と魚板泳ぐに驚く 風なきに また散る葉 おほきみ寺の昼は闌けたり |
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信時の代表作の歌曲集「沙羅」と同じ詩人で国文学者・清水重道の詩につけた歌曲です。「沙羅」でも思ったことですが、古典的な言葉を紡ぎながら非常に視覚的な描写に長けた人で、それはこの「寺」でも言えて、荘厳な古寺をあちこち巡る情景が非常にヴィヴィッドに立ち現われてきます。
信時の曲はゆったりと静謐なもので、この詩は実は5篇から成っているようなのですがひとつの曲として纏まって聴こえます。1950年の発表といいますから信時の作品でもかなり後期のものになるかと思います。
木下保の歌った録音が唯一のものでしょうか。「沙羅」並みにとまでは言いませんがもっと聴かれても良い作品でしょう。
( 2015.05.10 藤井宏行 )