独楽吟 |
|
たのしみは朝おきいでて昨日まで無なかりし花の咲ける見る時 たのしみは百日ひねれど成らぬ歌のふとおもしろく出きぬる時 たのしみは書よみ倦るをりしもあれ声知る人の門たたく時 たのしみは空暖かにうちリし春秋の日に出でありく時 たのしみは心にうかぶはかなごと思ひつゞけて煙草すふとき たのしみはとぼしきまゝに人集め酒飲め物を食へといふ時 |
|
幕末期の歌人・橘曙覧(たちばなのあけみ 1812〜1868)の代表作とも言えるのがこの「独楽吟(どくらくぎん)」、ここに取り上げたような「たのしみは」で始まる短歌が52首、いずれも平凡な俗事の楽しみを生き生きと描き出してとても面白い作品です。そこから6篇を選び出し、信時はとても面白い歌を書きました(1936年作曲)。
1首目の文部省唱歌のような端正な曲が切れ目なく次の流麗で力強い二首目に、三首目はちょっと憂いを秘めて始まりますが後半は喜びに満ち、そして四首目の晴れやかな曲、ちょっと切れ目をおいて五首目のゆったりと静かにしみじみとしたメロディが、最後盛り上がって日本情緒たっぷりに六首目で堂々と曲を締めます。最後の六首目は二回繰り返し、とても楽しく終わります。
テノールの木下保の歴史的録音が最近復刻され、ここで聴くことができます。
( 2015.05.09 藤井宏行 )