幻滅 |
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眞(まこと)と見しは影なりき 鏡の中の百合の花 現身(うつしみ)ながら夢なりき 晝なりけれど夜なりき |
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北原白秋のデーモニッシュな一面を垣間見せる詩です。大正3年に出版の詩集「白金之独楽」より。この詩集は青空文庫にはまだ上がっておりませんでしたが、国会図書館の近代デジタルライブラリーにアップされておりましたのでネットで見ることができました。ここはしばらく見ておりませんでしたがかなり充実してきていて、日本の近代文化を研究する上での貴重なアーカイブとなっているように思います。さてここでこの詩集を見ると信時の歌で「百合の花」となっているところが白秋のオリジナルでは「曼珠沙華」となっていました。百合の花の蒼白なイメージも捨てがたいですが、やはりここは詩人が選んだ通りの曼珠沙華の真っ赤な色彩の方が鮮烈なような感があります。心の揺らぎを表すかのような落ち着きのないピアノ伴奏に語りで入ってくる冒頭、そして心の昂ぶりと共に堂々とした曲調で盛り上がる後半と、この作品も不思議な情感を示しています。
2011年に日本伝統文化振興財団からリリースされた「木下保の芸術」というCDで、信時と同時代に活躍したテノールである木下のスタイリッシュな歌声で聴くのが良いでしょうか。今やなかなか聴けなくなった信時歌曲と、これまた渋い選曲の團伊玖磨歌曲とでとても聴きごたえのある録音でした。
( 2015.05.01 藤井宏行 )