海辺の恋 |
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こぼれ松葉をかきあつめ をとめのごとき君なりき こぼれ松葉に火をはなち わらべのごときわれなりき わらべとをとめよりそひぬ ただたまゆらの火をかこみ うれしくふたり手をとりぬ かひなきことをただ夢み 入日のなかに立つけぶり ありやなしやとただほのか 海べのこひのはかなさは こぼれ松葉の火なりけむ |
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日本のシンガーソングライターは概して歌詞も自作にこだわる人が多く、素晴らしい詩の文化遺産があるのにもったいないなあ、と私は常々思っておりました。この小椋圭さんもそんな典型的ソングライターのひとりで、たぶん作曲した歌のほとんどは自作の詩ではないかと思います。そんな彼になぜか1曲(たぶんこれが唯一ではないでしょうか)、佐藤春夫の若き日の詩にメロディをつけた歌があります。それがこの「海辺の恋」。言葉の響きのとても美しい詩ですが、佐藤が少年の頃の淡い恋を思い出して書いたのだと言います。1921年、詩人30歳のとき出版された「殉情詩集」の中に収録されています。
なんでまたここで佐藤春夫の詩を?ということですが、この曲、昭和49年(1971)NHKの銀河テレビ小説「黄色い涙」の主題歌なので、プロデューサーか誰かが佐藤のこの詩で、と依頼をした可能性があります。真相はどうあれ、小椋圭の抒情味あふれるメロディに佐藤の柔らかい言葉の響きが見事にマッチして大変印象深い歌が生まれました。
小椋自身の歌だけでなく、もっと多くのひとにカバーして貰ったら良いのにと思いますけれど、Youtubeではアマチュアの人が数人カバーしているのを見つけたのみでした。
テレビドラマの鮮烈な印象と共に覚えている人がこれから少なくなってくると、この歌もまた忘れ去られていく運命なのでしょうか。
( 2015.04.11 藤井宏行 )